『confusão』実演
ステージ上では楽器のセッティングが終わったようだ。
「次は『confusão』! だっ! 全員が専門外のパートにチャレンジするぜ。
フロアー! 彼女らの『caciqueando』でカオスに盛り上がれぇっ!」
DJの勢いのある紹介を受けそのまま演奏に入る。
のんちゃんのギターソロ。
経験者でもない。
単一のメロディパート。
演目の切り込み役。
練習の状況によってはギターの演奏は諦めてアカベラで歌うという選択肢も持ちながら進めてきた計画は、結果フルパッケージでの実施にこぎつけた。
こと、このパフォーマンスに於いては、のんちゃんは超えたハードルの数も高さも、私のものよりも遥かに上回っていたことだろう。
たった独りで戦っているのんちゃんの姿が。
私に勇気をくれる。
徐々にパートが合流していくような構成にしてあった。
ダンサーは最後だ。私たちが出ていくときは、私たちがのんちゃんを奮わせるように力強く踊ろう。感情を出して!
「Olha, meu amor
Esquece a dor da vida
Deixa o desamor!」
のんちゃんの歌唱が始まる。こちらも不慣れなポルトガル語での歌だ。
不慣れなギターを弾きながら、不慣れなポルトガル語の歌を歌う。
すごいのんちゃん! 全然できてるじゃん!
みことのパンデイロがリズムを添え、華やかさが増してくる。
のんちゃんの歌も伸びやかだ。
「のんーっ!」
客席に観に行っているマレが歓声を上げた。
その歓声に合わせるかのように、カイシャのルイとほづみのスルド、ひいのタンボリンが合流する。
ひとつずつとは言えそれぞれバテリアの楽器だ。音が大きく迫力がある。
負けないようのんの声が一段階大きくなった。
バテリアの音が、のんの軸を支えているのかもしれない。
「みんな、いこうっ」
「「「おー!」」」
私の呼び声に、いのり、がんちゃん、アリスンが応える。私もみんなも、あまり体育会系っぽい掛け声はできなかったが、気合は入ったと思う。
「ふぉ――――――――――‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
トップをきる私は思いっきり大きな声で場に躍り出た。
「いえーーーーーーーっっ!」
いのりも続いてくれる。
「わー!」「やーっ」がんちゃんとアリスンも振り切れてはいないががんばってくれている。
「わーっ! ほまれちゃーん! みんなーっ」
マレが目を輝かせて手を叩き、身体を揺らしている。
私ができなかった感情のダンス。マレが得意としていたダンス。
今こそ私は、マレに倣おう。
私はマレのバレエの先輩だった。
だから、マレを教え、導く役割を持っているつもりだった。
やがてマレがバレエの才能を開花させ、私を凌駕したときは、素直にその業に感嘆し、成果を称賛した。
同じバレエの演者として尊敬もしたし憧れもした。
でも、師として見做して取り入れようという意識は、なぜか抜けていた。
教え導くという最初の関係性が、私を盲目にしてしまっていたのかもしれない。
今更だけど。
今こそ、私は。
マレをお手本に、マレに学び、マレに倣い、自らの感情や想いをダンスに乗せる。
主張を、訴えを、欲を、剥き出しにして。
バレエをやっていた時に、これができていれば。なんて後悔は無い。
その挫折を経て、屈折を得たからこそ。この私があるのだから。
マレに届けたい想い。
マレから学んだものでマレの知らない私を表現できる私。
マレが普段観客に見せているものの一部をマレ自身が見られるように。