客席
五分近い演目はやってみると意外と長い。
そして終わってしまうと驚くほど短かったように思える。
結構良かったのではないだろうか。
うまくやれたという安堵も重なり、今になって汗が噴き出してくる。
「はーっ……はーっ…………」
「しんどっ……」
一息ついている私の横で、がんちゃんとのんちゃんも呼吸を整えていた。
うん、にーなとるいぷるの振り付け、容赦なさすぎだよね。
ダンス経験あっても体力をごっそり持っていかれたのだ。踊り慣れていないふたりにとっては、コレオを覚える、忘れてしまわないように集中する、といったところにもリソースを割かないとならなかったのだろうから、心身ともに疲れたことでしょう。
ふたりと条件的に近しいはずのいのりは、多少呼吸は荒かったものの、涼しい顔をしてスポーツドリンク入りのボトルのストローを吸っている。
その姿はストリート系の衣装と良くマッチしていた。何をしていても絵になる人だなぁ。
私の次の演目は『confusão』。まだ少し余裕がある。
汗を制汗シートで拭い、化粧を直した私は一旦エスコーラシャツに着替えてフロアに行く。ボトムスはストリート系衣装のままだ。
フロアではまず美容師軍団に囲まれた。
今はDJ主導のフリーダンスタイムだ。パーカッションの音が大きく会話には向かないが、口々に先ほどのダンスを褒めてくれた。
みんなで写真を撮り、それぞれダンスに戻っていったので、私もフロアの巡回に戻った。
「あ、キノさーん!」
曲と曲の合間、DJのMCのタイミングでキノさんに会えた。
前に話していた通り、何人かの生徒を連れて来てくれていた。
「あ、ほまれちゃん。格好良かったよ」
キノさんが言うと、生徒たちからも「格好良い!」「あたしもやりたい!」と声が上がった。中には、「先生とどんな関係?」なんて質問も。
まあ、それは気になるか。
恋人や友だちというには年齢差があり、親族という間柄でもない。かつての生徒かと予想している子もいた。
関係性を隠しているわけではなくとも、具体的な説明はちょっと面倒だったのだろう。「よく行くお店の方だよ」と言っていた。嘘ではないので私もその言い方に合わせて生徒と話した。
ほどなく重い低音のリズムが会場内を沸かせ始めたので、踊り始めた中学生たちと少し一緒に踊った後、私はまたフロア周回に戻った。
ほかのエスコーラのメンバーも結構参加してくれている。
古巣のメンバーもちらほらいて、懐かしい感じと惜しまれる感じを出されながらも、わだかまりの無い移籍だったので楽しく乾杯できた。
サンビスタ同士はちょっとした再開の時は大抵ハグを交わす文化だ。私の行先以外でも、色々なところでハグが交わされていた。
(あ、要さんだ。しょーちゃんもいる!)
要さんは数人の仲間たちと踊っていた。大学の友だちかな? だとしたら私にとっては先輩だ。そこに一旦音響の仕事から外れてフロアに来ていたしょーちゃんも合流して一緒に踊っているという構図だろう。
しょーちゃんなら直接知り合いではない要さんの友だちともすぐに仲良くなれるだろう。
「要さん! しょーちゃーん!」私は集団に飛び込んだ。「いぇー」途中カウンターで手に入れた透明なプラスチックのコップに入っているドリンクを、ドリンク片手に踊っていたみんなのコップに順に重ねた。
「誉ぇ! すごいじゃん! 何気に誉のダンス、観るの初めてだよね! すごく良かった!」
「ありがとうございます! 要さんに観てもらえて、嬉しい! まだまだ出ますので! 観ててください!」
巨人の心臓音のようなパーカッションの音に負けないよう、要さんは私に顔を近づけ、言葉を区切りながら大声て言った。返す私も同様だ。
「それじゃ、戻りますね! 引き続き楽しんでください!」
「次の出番も楽しみにしてるよー!」
踊り始めたふたりに手を振り、私は控え室に戻った。