思い出の中の私
「誉ぇ……」ふらふらとした足取りで、少し俯いたまま私の名前を口にする要さん。
「はい、なんですか要さん」
「誉がさ、委員会に入ってきたときね」
要さんも高校時代を思い出していたのだろうか。
「立ち姿の美しい子が来たなーって思ったんだ。立ち姿ひとつで、雰囲気って変わるもんだね。ただもんじゃない感じしてたよ」
そんな風に見てくれていたのか。ちょっと照れる。
「バレエやってたんだもんね。そりゃ美しいわ。でも最初はそのこと言わなかったよね」
隠すほどではなくとも、積極的に開示はしていなかった。そもそも、私はあまり自分のことをしゃべるようなタイプでもなかった。
「部活やってないから委員会に入ったんだよね。でも、わりとすぐに学外のサークル入ったって言ってきて、あれは、委員会の活動に支障が出ないようあらかじめ申告してくれたんだっけ? でも、サークルの内容がサンバって聞いて、申告の意図とか予定調整の善後策とか後回しで、私と本庄で質問攻めにしたんだよねー。あの時はびっくりしたなぁ」
よく覚えている。その時の様子を思い出して私は少し笑った。
「ふたりともすごい食い付きでした。『踊るの?』『水着で⁉︎』って。あれ、水着じゃないんですとか、楽器もあるんですとか、細かいところの説明をひとつひとつしていて全然話進まなかったですよね」
その時に、元々バレエをやっていたことと挫折をしたことを伝えたのだった。
単にバレエを辞めただけだが、志は半ばだったし、確かに何かを諦めたのだから、私の気持ちとしてはやっぱり「挫折」という言葉が適していた。
「バレエをやっていたのも、やめてしまったのも、その後サンバを始めたのも、委員会も……大学も、ひとり暮らしを選んだのも、今のバイトも……その全部があって、今の誉ができているんだよね。何が欠けたって今と同じところには辿り着いていない。今の誉がさ、今あるものを全部使って、これまでの集大成のようなイベント起こすって知ったときは驚いたけど、やっぱり、っていう納得感もあったんだ。誉は、そのイベントさえも通過点にして、もっと大きくなると思う。誉は……巨人になるんだよ……!」
きょじん……あまり可愛くないけど、きっと褒めてくれているんだよね。「~~界の巨人」みたいな。その分野の第一人者や大物を指す意味での言葉だろう。でも、全く想像がつかない。何らかの業界を牽引する存在という意味では、要さんの方がよっぽど相応しい。