会計メンバー
私は要さんの対応に感心と感動していたものだったが、「色部、上級生ふたり相手にしっかり立ち回れてたね。すごく頼もしいわ」と、私が要さんに感じた感想と同様の感想を述べてくれて、強張っていた感情が溶けるようにほどけていった感覚を、今もよく覚えている。
一年に満たない、短い要さんとの活動期間で、私は要さんにずっと助けられてきた。
「上杉先輩! なにもしてないのにデータが消えましたっ!」
「何もしてないのにデータは消えたりしない! ちょっと見せて、自動保存がどこかに残ってるはず……」
完全に消えたはずのデータは、要さんの手でみるみる蘇っていった。とても不思議だ。
後に要さんの語った話によれば、データは何かしないと消えないし、何もしてなければ完全に消えることはない、とのことだった。よくわからない。パソコンはたまに勝手にデータは消してくるし、何もしていないのに動かなくなったりするものだ。
お金だって、たまに勝手に減ったり増えていたりする。これも不思議だ。
「上杉せんぱぁい……仮払いの清算金、どうしても八円足りません……私が出して揃えちゃだめですか……?」
「駄目よ。帳尻合えば良いってもんじゃないの。もう一度領収書とレシート全部出して。再計算しよう……ほら、終わるまで一緒にやるから、泣かない!」
私はパソコンがそれほど得意では無かったが、それは私に限ったことでは無かった。
「あれ? 本庄先輩が作ったデータ、計算式ズレてません?」本庄先輩は会計の二年生だ。これまでの要さんの役割を担うべく奮闘しているが、どこか抜けたところのある先輩だった。
「え、あ、ほんとだ…………色部……?」
「えっ⁉︎ ……やれってこと、ですか……?」
「ねー……たすけてぇ」
「えー……やりますけどぉ……ドラマの再放送見たかったのになぁ」
「ごめん! 恩に着るよぅ」
「どーしたのふたりとも。この世の総ての地獄を請け負ったみたいな顔をして」
「この資料、全部やり直しになっちゃって……」
「上杉先輩ごめんなさいっ、私ミスっちゃって……色部に助けてもらって、なんとか今日中に仕上げますので。先輩は先帰ってください」
「ちょっと、それ、手打ちでやろうとしてる? 大元のデータはマクロ組んでたはずだよ。計算式は私がやるから、それ以外のところふたりで分担して仕上げちゃって。そしたら多分一時間くらいで終わるでしょ?」
「「うえすぎせんぱーいっ‼︎」」
「もう、ふたりで変なノリ良いから! さっさと仕上げちゃお。終わったらフードコートでなんか食べて帰ろうよ。先輩がおごっちゃうよ」
「えー、うれしい! 何食べよー」
「あれ? 色部ドラマは良いの?」
「良いんです! どうせぎりぎりだし、上杉先輩のおごりプライスレスですもん」
「あー、だよねー。私ステーキにしーよぉ」
「ほら! 口は食事の時に動かすんだから、今は手!」
「「はーい」」
要さんが奢ってくれた長崎ちゃんぽんはおいしかった。
本庄先輩はまじでフードコートでステーキを食べていた。