攻めの上杉先輩
一瞬怯んだように見えたふたりの男子生徒は、すぐに強気な姿勢を取り戻す。
何を根拠にした強気? そるが虚勢でないなら、本当に物事が理解できず、自分たちは正しいと思いこめているのだろうか。
「細かい説明は受けたけど、納得はできないんだよね。硬式テニスの団体戦で全国選抜大会一回戦突破と習字の大会が一緒? なわけないじゃん」
わざわざ書道を習字と言い換えるのが厭らしい。
先ほどのやり取りで最後に主張していた内容とも若干違う。評価値の内訳が明かされないことについてではなかったのか。
「それは色部が説明したでしょう? 生徒会費に於いては、『種目の差に依らない平等』を旨として配分しているって。これは学校として決めていることだから変わらないし、ルールとしても至極適切な設定だと思うけど?」
「どこがだよ! 団体戦はひとりが強くても勝てないんだ。全体のレベルを高水準で維持しながら戦い抜いていくのがどれほど大変か! たまたま全国クラスの……書道も選手で良いの? まあ、そういうプレイヤーが居て、大会まで行ったら同じだけの予算取れるとか、おかしいだろ」
「その論法だと、テニスでも個人戦で全国まで言った場合は団体戦より価値無いってことで良い?」
「価値って言うと、まあ……価値が無いわけじゃないのはわかるけどさ、同じ評価って違くないか? それなら突出した個人一人連れてくれば良くなるし、個人戦の無い競技が不利じゃん」
「そう? 傑出したエースがいない代わりに、チームプレーでエースが率いるワンマンチームに勝てる可能性があるってことじゃない? 個人競技の世界で、同世代に絶対的なプレイヤーが他校に全国大会の枠分だけいたら、その部の全国大会出場は絶望的になるのだから、そこはそれぞれのメリットデメリットの範疇でしょ」
「そんな極端なこと起こらないだろ」
「だいたい、前提条件と可能性の話を持ち出したのはそちらでしょう? 不利な時だけ極論だ極端だいうのは、自らの主張とて特定の条件下でのみ『そう見える』だけの例を持ち出した偏った『極端』なものと言えない? 公式テニスと習字が同じかという言い方してたけど、だったら、球遊びでも世界的な大会で表彰されたら、世界を変えるほどの発見をして世界から評価された科学部と同等の評価を得られるということにもなるのよ? それを言うときっと『極端』だと言うのでしょうけど、これはあなたたちの言い分を入れ替えただけのロジックだからね?」
ふたりが何かを言い返そうとするが言葉が出てこず押し黙る。
「そこ、論じても意味がないことは理解できた?
なら先に進めるけど、例のようなことが起こるかどうかが本質じゃないでしょ。それぞれにメリットデメリットがあるって言うことがこのテーマの首題。比較しても意味は無く、差があるわけでもないということ。そもそもこの一例を取ってもそうだけど、競技による差がそれだけ比較しにくいのだから、前提条件を設けたうえでの平等さを軸にするのって、むしろわかりやすいし自然だと思うのだけど」
いったい何にいちゃもんをつけているの? とでも言っているような不思議そうな顔を、要さんはふたりに向けた。
「大体、入ったばかりの一年に偉そうに説明されても納得いくわけないし、基準だって各部活の代表を交えて決めるべきじゃないのか? 現場を知らない連中が机の上だけで決めた基準なんて実を伴ってない」
また主張の拠り所が変わっている。
なんで一年の説明だと納得いかない?
必要な説明をしただけなのに、「偉そう」ってなに?
「いくわけない」って、どういう根拠で?
実を伴ってないって何を以て?
少なくともこちらが掲げている基準に対し、筋の通った反論は今のところひとつも出ていない。
にもかかわらず「不適切」と決めつけているが、それこそ実を伴っていない主張じゃないか。
「年次に何の関係が? 聞いている限り色部の説明に不備があったとは思えない。あるならそこを指摘しなさいよ。制度に関してもそう。否定の言葉は出るし、そのことに関する感想も出て来るけど、肝心な論拠が何ひとつ出てこないじゃない。それをこれ以上続けていても意味ないわ。主張するのは自由。それはこちらも同様で。お互い交わらない主張を続けていても何の生産性もない。少なくとも、テニス部がどれだけ主張しようが、決定事項は変わらない」
抗議も問い合わせもする権利はある。
しかし、議論は出尽くし、新たな主張もなく、変わらないと理解した上で、尚同じ繰り言を繰り返すなら、委員会の活動妨害として正式な抗議を生徒会に出すけど、まだ続けたいかと、上杉先輩は少し怒気を表して言った。
感情も含めてこの場をコントロールするための手段として使っているように見えた。