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クレーム

 入ってきたふたりの男子生徒に見覚えはない。

 サイドを刈り上げたショートヘアの方が、予算の件で訊きたいことがあるのだと私に詰め寄った。

 ふたりは公式テニス部だそうだ。



「説明で部員や実績で割り振ってるって言ってたけど、人数は去年と変わらないし、実績は団体戦で一昨年県大会一回戦敗退だったけど去年は一回戦超えてるんだから、むしろ増えてなきゃおかしくね?」


 これもままある問い合わせだ。

 絶対値ではなく相対値なのだから、その部の実績のみで評価されるわけではない。評価の仕方も内訳を知っている生徒の方が少ないだろうから、この手の問い合わせが起こるのは無理ないのだが、実際は年度初めに各部へ資料を配布しているし委員会で説明もしている。

 それだけ、委員会の活動について、日常に於いては気にしている生徒はほとんどいないということだろう。

 そうだとしても、同じ時期に同じような内容の質問をする前に、同じ事例があった過去どうだったのかをまずは部内で共有しておいてもらいたいところだが、昨年部費が上がっていて満足していた場合、不満に依る問い合わせはしていないだろうから、通常最長三年でメンバーが入れ代わる学校の部活という環境では、経験に伴う継承がなされないことも仕方ないのかもしれない。



「ええと、毎年の部費は生徒会費を源泉にしていますので、生徒会費の額の影響を受けるんです。生徒会費が必ず同額や増額になるとは限らないので減ることもあります」


「生徒会費って去年より減ってんの?」


「いえ、同じくらいです……」


「じゃあ……!」


「あ、あと、実績や人数も他の部活との兼ね合いもありますので、極端な例ですけど、ずっと地区大会一回戦負けだった部がインターハイ出場っていう躍進を遂げたとしても、他の部活が全部インターハイ優勝をしていた場合、他の部活の方が評価は高くなります」


「一昨年と去年でそれぞれの部の実績にそんなに差あったか?」



「い、いえ、そこまで大きな差や偏りはなかったですけど……」



「なんだよっ、意味の無い例えださないでくれる⁉︎ 結局減ってる理由ないじゃん」



「い、いえ、細かい評価方法もありまして、インターハイや県大会出場は、その時点で評価されます。次に評価値が上がるのは入賞した場合で、一回戦や二回戦の細かい差は評価値に変動は無いんです」



 結構複雑な仕組みについて、多少手元資料を確認しつつのたどたどしくはあっても正しく説明できたと思う。

 でも男子硬式テニス部のふたり組は全く納得した顔をしていなかった。



「なんだよそれ! 一回戦と二回戦が同じって、県大会舐めてんのか? 一回戦越えるのが簡単じゃないこと理解してる? わけのわからん基準で評価されんの納得いかないんだけど!」


 私だってかつては競技者だ。大会のシビアさくらい理解してる。

 この基準は私が決めたわけじゃないって言いたいけど責任逃れしても仕方ない。そもそも努力や難易度に基準を引くということ自体が難しい。細かく分けてしまえばキリがない。ある程度のラインでざっくり分けざるを得ないことくらい想像できないものだろうか。


「まあ、それがルールだからってんだろ? くそみてぇな言い分だけどルールそのもののことをこいつに言ってもしょうがねぇよ」


 ベリーショートの方が私を見下したような目で一瞥してからサイド刈り上げに諭すように言う。


 ルールだから従えとか、そんな言い分私言ってないじゃない……。


「一回戦も二回戦も一緒っていう、戦ったことも無い委員会様の雑な考えはわかったわ。だとして、評価が同じならせめて同額じゃねーの? 減ってんのはおかしくない?」


 だからっ……極端な例はわかりやすく示す目的のもので、その都度の質問の「一昨年と去年における大きな差」は無かったけど、細かい差を積み重ねた結果、同じ程度の評価値の部活でも微増微減が発生するのはおかしいことじゃないでしょう?


 戦ったことがないと言う決めつけも腹が立つ。

 目の前の人物を委員会の生徒としてしか見ず、その生徒がどのような背景を持っているかなど想像もしない。委員会の人間が、現在や過去で競技者ではないとなぜ思い込めるのか。


 そのような狭い視野だから、外部のあらゆる要素との因果関係になど思いも馳せられず、単純に成績の昨年比だけで予算が決まるなんて思えてしまうのだ。

 全部活が全て昨年の成果を上回ったら全部活の予算が上がるとでも思っているのだろうか。

 お金は勝手に増えたりはしない。源泉が変わらないのならば総予算が劇的に増えるわけもないのに。


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