夜道を、ふたりで
騒がしかった店内も、いつのまにか落ち着いた雰囲気になっていた。気づけば店内にいる客は私たちと、五十代くらいの男性ふたり組のふた組しか残っていない。
楽しい時間はやはりあっという間に過ぎてしまうものだ。気づけば終電はとうに行ってしまっている時間だった。自宅が徒歩圏内だと終電を気にしなくて良くなるのはメリットだが、その分自制心がないと際限が効かなくなる。
「要さん、立てます?」
「よゆーよ! なにいってんの誉。私たいして酔ってないからね」
酔っ払いは大抵自分は酔っていないと言い張る。
まあ一応立ててはいる。足元もややおぼつかないが肩を貸すほどではない。
「ありがとうございました。また来てね。気を付けてね」
出口まで見送りに来てくれた女将さんの声を受けながら、ゆっくりと要さんの家まで歩く私たち。
女将さんは店先まで出たついでに、入り口前に置いてある看板の明かりを消した。
女将さんは「おうち近いのは知っているけど、遅い時間だしタクシー呼ぼうか?」と言ってくれたが、要さんが「歩いて帰る」ときかなかった。
「本当に大丈夫?」尚心配する女将さんに、「今車乗ったら吐いちゃう」「夜風浴びながら帰りたい」と要さんが言うので、「私がエスコートしますので大丈夫です!」と、女将さんを安心させたのだった。
女将さんは「吐いちゃうなら歩いた方が良いのかなぁ……誉ちゃん、なにかあったらうちに電話してくれていいからね。すぐ電話するんだよ」と、一応納得してくれた。お店ももうそろそろ閉店の時間だが、私たちが家に着くまで30分もかからない。それくらいの時間なら女将さんはまだ締め作業や明日の仕込みなどを店内でしているのだろう。
私のエスコートが安心材料になったわけではなさそうなのが残念だったが、気遣いはありがたかった。
平日の夜にやることの多い『ソルエス』のエンサイオ(打楽器隊とダンサーの合同練習)に通う私を心配した要さんが贈ってくれた防犯ブザーも装備済みだ。問題はないだろう。
要さんは自分の足で歩けてはいるが、ふらついたらすぐに助けられるよう寄り添うように歩いた。
自分のバッグは肩にかけ、要さんのバッグを右手に持ち、左手は要さんの腕に添え、私が車道側を歩いて家路へと向かう。
要さんの家に転がり込むことになったあの日とは逆だ。
あの日は要さんが私の荷物を片方持ってくれた。
いつも、私が抱えているものをさりげなく、そっと、持ってくれるのが要さんだった。
あの頃も――。