ふたりの案
しょーちゃんは学生時代に今のバイトをはじめ、卒業してからも続けていた。
給料が良く、仕事の内容も性に合っていて気に入っていたのだそうだ。
とはいえ、ずっと続けられる仕事ではないことも頭にはあって、積極的ではなかったが、本当にやりたいことや条件の良い就職先に限って、ぽつぽつと就職活動を続けていた。
三十歳になるまでに一生を賭けられる仕事が見つかれば良いと思っていたところ、思いもかけず早くに理想的な仕事が見つかった。
ずっと映画に関わる仕事をしたいと思っていたしょーちゃん。
クリエイターではないので、半ば諦めていたところ、映画配給会社の採用を見つけ、未経験ながら応募したところ通ったのだ。
就職を機に、シェアハウスを解消しようかと言う話は元々上がっていたらしい。
それでも今より給料はガクッと下がる見込みのしょーちゃんは、やっていけるか確信が持てるまでは、家賃や水道光熱費を折半できるこの生活を維持したい思惑があった。
要さんとしても、比較的給料が良いのでひとりでも今の家を維持できはするが急に生活費が倍になるのが痛手であるのは間違いない。と言ってすぐに家賃の安いところに引っ越せるかと言われれば、少し面倒だった。
「だから誉ちゃん。ある意味これって運命かなって思ったんだよね。私は思い切ってここを出るよ。保険打ってたら自分に甘えちゃう。せっかく一生やりたいと思える仕事に就けるんだから、覚悟決めなきゃ」
しょーちゃんが言うには、準備期間は設けず、すぐに出ていく方向で計画を修正しようと思っているとのことだった。
要さんも、私がしょーちゃんの後に住んでくれるなら助かると言ってくれた。
「少しは責任も感じてるからさ。家賃は今払ってる分くらいで良いよ」
なんせ給料良いから、と笑っている。
私との生活が楽しみとも言ってくれている要さんに、しょーちゃんもちょくちょくお酒を持って遊びに来るからと楽しそうだった。
要さんの家は、立地的には今までの家よりも都心から少し離れることになるが、大学へはその分近くなっている。
もうひとつ、運命めいた偶然があった。サンバを再開するため、入会を検討していたエスコーラのひとつ、『ソルエス』が拠点としているエリアでもあった。
要さんとの生活も含め、結果として楽しみや楽さが増えることになる。
二人の好意に甘えさせてもらうことにした私は、なおさらお金の部分でいつまでも甘えるわけにはいかないな、と、早く仕事を決める決意をした。