おでん屋
今日の仕事には反省点は多々あった。けれど要さんは褒めてくれた。私の仕事にも意外と良い部分はあったのだろうか。
メロンパンは温存し、要さんと肉体の疲労と心の回復を図るべくおでん屋さんに寄ることにした私たち。
おでんの湯気が鼻腔をくすぐる。次は何にしようかな。
いったん昆布を食みながら目の前で煮込まれているおでんを物色する。「はんぺんお願いします!」「はいよ、はんぺんねー」
今日の仕事は、周囲の助けを得てもらえた及第点。お客様にも助けられた部分もある。
でも、要さんが言ってくれたように、店内総当たりですべてのお客様を対応するのが『Three ducks』のスタイルだから。
個々で売り上げを競っているわけではなく、お客様もなんとなく目当てのキャストはいるものの、永久指名みたいな制度ではない。
俯瞰で全体を見て時間やら席の状況やらスタッフの動きやらを掌握して動ければそれに越したことはなく、それができていてもいなくても、とにかく目の前のお客様、状況には全力で対応していれば、ミスや失態もあるかもしれないけど、致命傷にはならないと思った。ならば、一生懸命やるだけだ。
「はんぺんいーね。私もはんぺんと、あとちくわぶ」
ちくわぶ? 小麦の塊みたいなやつだよね? 要さん、あれ好きなんだ?
「何気にイベントへの勧誘もしてたでしょ? そういうのも良かったよね。これもさ、イベントに集客したい誉の欲とか都合とかだと言われればその通りなんだけど、別の側面で見れば、お客様にとってはキャストがプライベートのイベントに誘ってくれたっていう形にもなるわけでしょ? そこで、普段とは違う姿を見ることができる。誉のファンであればあるほど、嬉しいんじゃないかなぁ」
そしてショー自体が見るに値する仕上がりになっていれば、それはそれで感動が与えられるのだから、一石三鳥以上の効果だって見込める。
なんてことを要さんが言ってくれたから、ようやく私は今日の成果に純粋な肯定的な評価を与えることができた。
「ウインナー巻きください」
肯定的な気分になれたので、自分にご褒美を与えても良いと思った。遅い時間だが、ついついおでんを次々頼んでしまう自分を許した。
「私は餅巾着と糸こんにゃくと、あとハイボールお替りください」
要さんはもっと止まらない感じになっている。
「あ、そーいえばさ。祥子から連絡あった?」
無かったと思う。念のためスマホを確認するが、着信もメッセージも無かった。
「そか。あんたに話したいことあるって言ってたから、そのうち連絡来ると思う。なんかが確定してからどうとか言ってたから、それが未だなのかもね」
何のことかよくわからないが、待っていれば良いのだろうか。
イベントでもしょーちゃんには音響周りを手伝ってもらうことになっているから、そのことだろうか。打ち合わせは必要と思っていたから、こちらから連絡しても良いかもしれない。
「イベントも楽しみだよね。私は出演はしないけど、始めから終わりまで観るから! 祥子や誉の雄姿を見ながら飲んで騒ぐよ。知り合いも連れてくからね」
嬉しい。