お誘い
「格好良かったんですね。キノさんはそういう、ちょっと不良みたいな男の人の歌が好きなんですか?」
「必ずしもそういうわけじゃないかもね。たまたま当時BJCが刺さったってだけで。何かを好きになるタイミングとか状況ってあるよね。穏やかな歌も女性の歌も好きなものはあるよ」
私のスルドもそうだった。あの日、あの場所で、あの演奏を聴かなければ、私はスルドに触れることも無かっただろう。
「キノさん、私たちの音楽イベント来ません? 私も演奏したり踊ったりします! 格好良いかもですよっ」
キノさんは日時と場所を聞いてくれた。
「本人とか保護者さんとか、兼ね合いあるんでしょうけど、もし可能だったら生徒さんも連れてきてくださいよ」
「そうだね、そういうの好きな子多そうだ。ちょっと声を掛けてみるよ。たのしみだなぁ、誘ってくれてありがとう」
キノさんの穏やかな微笑みに、もう寂しさは現れていなかった。
その後、おかっちにはそっこーフォローを入れた。
ジョーがうまく対応してくれたようで、おかっちは上機嫌だった。
ちょくちょく要さんがフォローしてくれていたことも知っている。申し訳ない気持ちと情けない気持ちが沸き上がるが、それは後回しにして、今は目の前のお客様に喜んでもらうことに集中する。
「ジョーから写真渡されました? どうかなぁ、写真写り……目が死んでなければ良いけど」
「はっはっは! なに言ってんの! 全然可愛いよ。財布に入れとくわ。これで金運上がったら、宣伝させてもらうから」
「えー、そんなことになったら私開運グッズ扱いされちゃいますよ」
「この仕事をしてるうちは、人気出て困ることはないだろー。あー、それにしても良い写真だ」
「え、ちょっとっ、本人が居る前で観るのやめて欲しい! さすがに恥ずかしい」
「直接観たかったなぁ。今度ほまれが出られる日のコンセプトデーは絶対来るからさ。一緒に写真撮ってよ」
それくらいお安い御用だ。
おかっちは一層相好を崩した。
「ただ、メッセージでも送りましたけど、しばらくはあまり出勤できないんです。音楽イベントの練習がすごい詰まってて。あ、おかっちイベント観に来ません?」
さりげなく誘ったら、これもOKだった。
「ありがとう! 出るって選択肢もありますよ?」
「いやいやいや、若い連中に交じって俺にやれることなんてないよ」
観に来てくれるだけでもありがたいし、音楽系のパフォーマンスに関する心得が無いことも事実だろうから、観客として楽しんでくれればそれで良い。
ただ、年齢を理由に諦めたり退いたりはしてほしくない。
「うちの打楽器隊の中には、七十代のひともいるし、別のチームには八十代のひともいますよ! ダンサーでも六十代七十代も全然いますし!」
私の言葉を、どこまで我が事と捉えてくれたかはわからないが、おかっちは「ありがとな」と言ってくれた。