御殿破れて
「ああ、わたしの楽園が閉じていく……」なんて言っているるいぷるを見ていると、みことの対処も適切だったと思う。
とにかく時間はいくらあってもありすぎるということはない。できるだけ早く練習に入りたいところだ。
でも、るいぷるとにーな。
年長者のふたりによってもたらされた、あの妙なテンションの自己紹介の時間。
意図があってのことか天然だっただけかは計りかねるが、決して冗長でも余分でもなかった。
みんなと初対面のマレは、みんなのことを言葉や文字としての情報以上に、感覚としてそれぞれの個性に触れられただろう。
それは入会間もない私やのんちゃんにとってもみんなをより深く識ることのできる機会となった。
自己紹介の内容自体に深いものがあったわけではない。すぐ切り上げたみことなんて情報量はほぼないに等しい。それでも、推しがわかればなんとなくその人の傾向はわかるし、同じ話題で盛り上がれることもあるだろう。
そういった情報から得られる一次的な効用ももちろんあるが、自己紹介全体の場を通して見れば、みことは効率の良い会議の運営ができるタイプだ。
必要充分を最速最短で得られ、無駄はない。
それが自己の都合のためではなく、他者への配慮や全体利益を優先した上で決断し、年上相手でも毅然と発信できる。
場での在り方を見てるだけでもそれだけのことがわかる。
場を作れるにーな。
人の奥を読んで人を巻き込めるるいぷる。
場に流されやすいが場の流れを増幅できるひい。
場を壊さず巻き込まれることのできるがんちゃん。
場の影響を受けず揺るがないアリスン。
揺るぎなくも乗ることもでき、必要があれば修正もできるルイ。
場と人両方を読み適宜牽制と修正のできるほづみ。
全体を読み切り作る側にも乗る側にもなれるいのり。
言葉で得られた以上に、その人の人となりと個性があの短時間で識ることができた。
恐怖や不安は、未知や無知が元になることは多い。翻って、認識し理解することで恐怖や不安は薄まり、より好感を持てるようになるのは道理だろう。
自己紹介の順番が最後の方だったマレは、その頃には緊張感やアウェー感はほぐれていたに違いない。
そのうえでマレは存分に自分を顕した。言葉ではなく、自分のフィールドであるバレエで。
それで人の総てを知れるわけではないが、『ソルエス』メンバーの方も、マレの本質をなんとなく感じられたのではないだろうか。
新人である私たち三人のことも、同様に話した言葉以上にみんなの中に情報として入っていったことだろう。
自己紹介が単なるセレモニーではなく、理解し合い関係性をも深める用途を満たしたのだとしたら、掛けた時間以上の価値はあったに違いない。
お互いを知らないでいるよりは知っていた方が、知っているならより深く識れている方が、練習の精度向上も期待できる。
るいぷるやにーなからは、計算高さは感じられないが、野生的な感性による、「場や場にいる人間の気持ちと、気持ちを起因としたその先の効果」にとってより良い選択が選ばれているような気がする。
特にるいぷるは、その辺りの機微が人外じみているといのりから聞かされていた。片鱗に触れただけかもしれないが、私もそう思わされた場面にすでに数回遭遇している。
いのりとは違った意味で、頼れる心強い先輩と言えるのかもしれない。
このチームなら、催しも、催しを通して為したいことも、きっとできる。そう思えた。