自己紹介(マレ)
汗を軽く拭う眩しい笑顔のにーな。
その隣でがんちゃんが疲れ切った様子で「はー……、はー……」と息を整えている。
いのりはその様子まで手持ちの端末にデータに収めていた。
「じゃー次のマイメンに託すよ! かもっ! マレ!」
「ええええええええっ⁉︎」
マレの困惑はよく理解できた。ただでさえマレだけが初対面なのに、この流れを引き継げと言われているのだ。
「でたー! 出ましたよこれっ! いよぉっ! マレリーナ降臨‼︎」
「え、まれり……?」
歌舞伎のようなるいぷるの声が場を煽る。
「あ、えっと、はい、マレです。バレリーナです。のぞみの双子の姉で、ほまれちゃんとは幼馴染で、フランスに留学中だったんですけど今たまたま日本に居て……そんな偶然が重なって皆さんと一緒にイベントさせてもらうことになりました。好きな食べ物は炊き込みご飯と豆腐です。あとうちの蕎麦」
「マレとのんちゃんち、お蕎麦屋さんなんだよね。今度みんなで行こうー」
「お蕎麦屋さんは行こう! でも自己紹介が元のに戻っちゃってるー! ……あそーれ、へい……! へい……!」
にーなが嘆くや否やゆっくり手拍子を叩きはじめる。
「……ちゃっちゃらら、ちゃっちゃ、ちゃっちゃっちゃー」
ニーナの手拍子のリズムに合わせ、くるみ割り人形の一節を唄うるいぷる。その部分だけを繰り返して。
るいぷるもバレエ経験者だと聞いている。
くるみ割り人形の曲は把握しているはずだが、敢えて全員がわかる部分のみを繰り返しているのだろう。
るいぷるは歌いながらバレエの動きで踊り始めた。
一節でポーズを決め、マレを見る。「さあ、次はあなたよ?」の目で。
マレも歴戦のダンサーだ。場を読む、どころか、場を支配し圧倒してきた類のダンサーである。
例え雑な振りでも、適当な音ででも、マレは「踊る」ということから逃げたりはしない。
……そう、マレは逃げたりはしない。例え戸惑い、立ち止まることがあったとしても。マレはきっと受け止め、乗り越え、先へと歩を進める者だ。
マレによる、バレエを踊るには決して整っているとは言えない環境下で披露した世界レベルの技に、ダンスや音楽という分野文化に身を置いているこの場にいる全員が、まさに見惚れた。
もちろん、本気のダンスというわけではない。
それでも、身体の使い方、動かし方に違和感は無く、観る者を呑むマレのダンスは健在だった。本人の見立て通り、怪我の影響はもうほとんど残っていないというのは間違いなさそうだ。
「さすがっ……! これがスカラ獲得者のレベルかぁ」
バレエ経験者であるるいぷるはそのすごさをより深く理解しているのだろう。珍しくふざけずに感嘆の声を上げた。
「バレエとサンバ、どう融合できるか楽しみです! じゃあ、次はのぞみだね。この流れ継がないとダメなんだからね?」
マレが強気な笑顔でのんちゃんに振る。今まで少し借りてきた猫感があったが、ようやくマレ本来の雰囲気に戻りつつあった。