自己紹介(ほづみ)
「ルイのあとかぁ……ほづみです。大学二年。ひいの姉です。サンバ歴はひいと同じで十年くらい。んー、私もサンバにどっぷり浸かってるつもりではあるんだけど、ルイには敵わないかなぁ。でも、自主練とかワークショップとか、結構がんばってます! たいやきとチーズが好きです!」
遠慮がちなほづみの自己紹介に、ルイは言葉を挟む。
「でも、最近ほづみ色んな人のワークショップ出てて異なる流派の動きの良いところを取り入れたり、アシェやアフロ、フォホーやガフィエイラなどサンバに通づる多様なダンスを学んだりしていて、幅がどんどん広がってるよね。イベントの運営とかもやってるし……」
謙虚に自分を立ててくれたほづみへのフォローの言葉に思えるが、ルイの表情は真摯で真剣だ。ハイーニャを狙う身としては、身近にいる少し年上の強力なライバルに、敬意と焦りの念を、隠さずに表しているのかもしれない。
ハイーニャはバテリアの女王と評されるだけあって、バテリアからの支持の篤さも問われる。
また、チームごと、ハイーニャごとにその在り方は多様だが、『ソルエス』としては女王足る技術、華やかさで他を凌駕し、さらに、ダンサーの規範となる気質や資質も求められていると聞いた。
外部との接触を積極的に行いダンサーとしての厚みを増しているほづみ。
それでも、ダンサーとしての技術と純度なら、ルイの方が上かもしれない。
ポテンシャルなら類稀なる身体能力とセンス、短時間且つばらつきはあるが、驚異の集中力を有しているほづみの妹ひいが頭抜けている。
でも、人当たりや人徳なども含めた総合力と安定感で見れば、ほづみは相当高いレベルでバランスの良いダンサーだろう。
こうしてひとりひとりを見ていると、『ソルエス』は規模の割に、綺羅星の如き人材に恵まれているなと思わせてくれた。
ルイやひいと同世代のダンサーとしては、他にみことがいる。
彼女は他の同世代ダンサーに較べると経験は浅いが、決して劣らないレベルに至っている。
ほづみに負けない華やかな見た目とひいに負けない長身を持ち、パシスタとしては居るだけで人目を惹くダンサーだ。
今回のイベントを期にマランドロとしても参戦することは既にチームからの承認を受けている。男性マランドロとはまた違った魅力を発揮し、マラバリスタもできる稀有なダンサーとなるだろう。
彼女たちよりも少し下の世代の子たちも粒ぞろいで、『ソルエス』のクリアンサスのレベルの高さは今なお他エスコーラに語られる要素となっている。
そういう意味では、ルイは下の世代の突き上げにも前向きな焦燥感を得ているかもしれない。
二十代のダンサーもるいぷるやにーなをはじめ、技術力の高さに個性の強さを併せ持ったダンサーを抱えている。
『ソルエス』を長きにわたって支えてきた三十代、四十代のダンサーも衰えるどころか一層の円熟味を増しトップダンサーとしての存在感を後輩たちに見せつけている。
他チームが挙げる『ソルエス』の特徴として、クリアンサスと並び称されるマランドロも、単独でショーになり得るレベルの華麗さだ。
それだけの有力なダンサーが、持ち得ている魅力を充分に発揮するためには、見合うバテリアの音が必要となる。
バテリアもまた、規模の小さいエスコーラ相応の人数構成だ。
自ずと、ひとりひとりの能力が問われることになる。
少人数ながら、ひとりひとりが輝いているダンサー同様、バテリアも相応しい輝きを放たなくてはならない。
これまで強豪のエスコーラで戦力として機能していたことなんてなんのアドバンテージもない。
確かに『ソルエス』は前のところよりは浅草サンバカーニバルに於ける順位は低く、規模も小さいエスコーラだが、場合によっては前よりも熾烈な研鑽が必要になるかもしれない。