要さんち
結局電車には間に合わせることができた。
電車なら要さんの家の最寄りまで乗り換え無しで二十分程度。
要さんは駅まで迎えに来てくれていた。
「おー、来たね。こう言う時ってなんて言うんだろ? 大変だったね、はおかしい?」
言いながら要さんは私の手荷物をひとつ、引き取ろうとしてくれた。
大丈夫です、と言う私に、いいから! と要さん。結局学校の道具一式を入れていたトートバッグは取られてしまった。
荷物たくさんで移動が遅くなるよりは、分担して早く家に着こうと言うことらしい。
「すみません、ありがとうございます。あと、夜分にすみません」
要さんは「今更何言ってんの」と笑った。私もつられて少し笑った。恐怖によってもたらされていた強張りが、少し解けたかもしれない。
「やっと笑ったね。少しは落ち着いた?」
要さんは私の頰に手を当て、「血色も少しよくなって来たみたい」と、安心したように言った。
途中でコンビニに寄って、必要そうなものを買い足して要さんのマンションに着いた。
暗いから実際のカラーは異なっているかもしれないが、白を基調とした堅牢な雰囲気のマンション。ところどころ、チャコールグレーかダークブラウンか、濃いカラーが使われていておしゃれなイメージも持った。
「ここの四階だよ」
外からじゃなんとも言えないけど、広そうだ。
私が今住んでいるところよりは地方よりで、大学には近づいている。
それでも都心に通いやすく、近年ベッドタウンとして人気のエリアで、地価も上がり続けていると聞いた。
すごいな要さん。こんな素敵な部屋借りれるのか。いくらくらいするんだろう。
「さ、入って。ただいまー!」
ん? ただいま?
「おー、おかえりー。あ、きたねー! この子が後輩ちゃん?」
中から知らない女性が出迎えた。
「そーそー、後輩の誉」要さんは女性に答えた。
「あ、あの。はじめまし、て......?」
「ああ、まだ言ってなかったっけ?」要さんは言いながら私を部屋に入れ、自らは靴を脱ぎコンビニ袋を女性に渡した。女性は袋を覗き「お、プレモルじゃん」と嬉しそうにしている。
「ルームシェアしてるんだ。彼女は祥子」
畠山祥子さん。要さんとはバイト先で知り合ったらしい。要さんより二つ年上。だから私とは四歳の差がある。
要さんと祥子さんは仕事を通して仲良くなり、ルームシェアするようになったそうだ。
「しょーちゃんで良いよー」
気さくそうな人だ。
「誉です。しょーちゃんさん、」
「さんいらない!」
「しょーちゃん、もこちらに住まれてるって知らなくて。お邪魔しちゃってごめんなさい」
「いーっていーって! なんか怖い目にあったんでしょ? みんなで少しお酒飲んで楽しい雰囲気にしてねちゃおーよ」
「なんで素直にしょーちゃんて呼べんのよ。だったら私も要でいーから」
「いや、でも、要さんは、要さんなので」
「ふー、まあ良いけど。あと祥子。誉は未成年だから、飲ませちゃダメだよ。でも、楽しい雰囲気にするのは賛成。祥子のトーク期待してるからね」
任せて! と言えるしょーちゃん。なんだか頼もしい。
要さんとしょーちゃんは、近くのカラオケの設備もあるパブで働いている。
キャバクラではないがお客さんにお酌したりと、接客もあるようで、歩合ももらえるそうだ。
二人とも結構成績は良いらしい。
なのでそれなりに収入はあるし、お酒には強いし、トークにも自信があるのかもしれない。




