私のターン
「じゃ、そのまま、誉ちゃんの番ってことで」
ランドさんに話を振られる形となった私。
その流れで自己紹介をさせてもらうことになった。動揺を落ち着けなくてはと、一旦大きく息を吸い、吐く。
「あ、はい。改めまして、色部誉です。サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』が後援させていただくイベントに、皆様のご協力をいただけると伺い、非常に嬉しいです。特に音は重要な要素です。現地の環境は音楽イベントに特化したものではありません。祥子さんや祥子さんの会社の皆様の助けが得られることで、成功がぐっと近づいたと思いました。私たちや、参加してくださる外部の演者は、ダンスや演奏は披露できますが、それらを繋ぎ、場を盛り上げ、またはコントロールする、全体を構成するうえでの主軸ともいえる役割を、ランドさんが担ってくださるとのことで、安心して演技に特化でき、また、会場の空気感も担保されたと思うと、先ほど祥子さんも言っていましたが、本当に心強いです。皆様、よろしくお願いいたします」
なんとか気を持ち直した私は、失礼のない自己紹介を言えた。と思う。
どんなにイカれたイベントでも。
その下準備は、まともで真面目な大人が集まって、真面目で論理的な議論と検証によって形作られているようだ。まあ中にはノリと勢いだけで成立しているものもあるのかもしれないけれど。
しょーちゃんですら、『three ducks』での接客の時に見せていた適当な感じは形を潜め、マスタリングがどうだとか、よくわからない単語と数字を組み合わせたやり取りだとかで、当日の何らかの機材の何らかのセッティングについて、なにかが決まったようだった。
蚊帳の外になりがちなわたしに、ランドさんは、「今のはこういうことだよ」「これをすることでこういう効果があるんだ」といった、端的な解説を挟んでくれて、終わるころには音響の何たるかの一パーセントくらいは理解できるようになっていた。どちらかと言えば、音という目には見えない物理現象について、それを鳴らす環境下それぞれにおいて、設備や室内の仕様などを考慮して最適を追求していくという行為の奥深さを、識れたということが私にとっては大きかったかもしれない。
音というものは、ただ鳴らせば良いというものではないらしい。
具体的な役割と。
細かい音響の設定やら機材についてやらは大枠まとまったっぽい。
あらかじめ伝えられていた今回の打ち合わせの所要時間にはまだ余裕があった。
まだ細かい点の打ち合わせもありそうだが、やや雑談混じりになっている。会議室の予約時間はまだ大丈夫そうだし、みんなの予定も、少なくともすぐに出ないとならないなんてことはなさそうだ。
ここで、少し私に時間をもらうことにした。