イベントの運営の打ち合わせ
十㎡ほどの白を基調とした部屋の真ん中にはダークブラウンで揃えた六人掛けテーブルとチェア。
入り口側の壁面はガラス張りで、奥の広い壁面には多孔質セラミックスの建材で仕上げられていて、モニターも掛かっている。奥壁面に向かって右側の壁面にも小さいモニターが掛かり、左側の壁面にはホワイトボードが掛かっていた。
長いテーブルと平行にダクトレールが通り、白色のスポットライトが白い部屋を明るすぎるくらいに照らしていた。
奥と右の壁面には小さなアートと、どうやってくっついているのかわからないが小さなインテリアグリーンが彩を添えている。
規模は大きくなく、少人数で運営している映画配給会社の会議室は、華やかな業界に相応しく、広くは無くてもおしゃれだ。
しょーちゃんが務めている『movie arts』の会議室を借りて、音楽イベントの打ち合わせをさせてもらうことになっていた。
当日は休日のしょーちゃんが、職場の先輩も巻き込んでサウンドオペレーターをやってくれることになっていた。音響と照明周りを中心にほぼボランティアで手伝ってくれるスタッフさんも紹介してくれる。
それでもあくまでも友人として、個人的に手伝ってくれるのだ。
にもかかわらず、『movie arts』の社長は「面白そうなことやってるね。できることあったら協力するよ~」と、軽い感じで協力を願い出てくれた。
当日は残念ながら予定があるようで見に来ることが叶わない社長は、「差入持っていけないから、これでドリンクでも」と、ポケットマネーでいくらかの資金も提供してくれた。「スポンサーってほどたいした額じゃないから気にせず受け取ってくれたら嬉しいな~」なんて、どこまでも軽い。
さすがしょーちゃんのボス。軽やかで懐が深い。
その社長の好意で、会議室も使わせてもらえていた。ほぼ部外者で、会社の業務とは関係ない用途なのに。そして、業務中であるはずのしょーちゃんもその打ち合わせの参加を許されている。
「失礼しまーす」
しょーちゃんに通された部屋。「空いてるところに座ってて」といいお茶を取りに行ったしょーちゃんに従い、空いていた下座に相当する席に着く。
「こんにちは」
対面の、同じく下座に着席していた、セットアップ、Vネックセーター、ネクタイをブラウン基調でまとめている五十代前半くらいに見える紳士が穏やかに挨拶をしてくれた。荷物入れには丁寧に使い込まれた風情のあるキャメルのレザーバッグに、同じくブラウン系のツイードハットが乗っている。
上品そうな紳士に「こんにちは」と挨拶をして、鞄から手帳と筆記用具、タブレットを出す。紳士の目の前にはMacbook air。
しょーちゃんの会社のクリエイターのひとかな?
ジアンやるいぷるもそうだが、クリエイター系の仕事の人は何となく雰囲気あるし持ち物もそれっぽい。
まあ単なる印象でしかなく、実際はクリエイターでも硬そうな職業みたいな人もたくさんいるだろうし、クリエイターでなくても洒脱な人もたくさんいるだろうけど。
「おまたせー」
しょーちゃんがお盆にミニペットボトルのお茶を載せて再登場し、私と紳士に振舞う。
しょーちゃんと一緒に、既に開いた状態のノートパソコンを持って入室した、ラフな格好の三十代くらいの男性も空いている席に座る。