ハマチ、お待ち
「えーなになに? あきにい、もう新人ちゃんに手ぇだそうとしとるん?」
話に入ってきたのは、少し小柄な女性ダンサーだ。
練習の時、もう一人の女性ダンサーと高校生くらいのダンサーの三人でなにやらコミカルな動きを合わせていてげらげら笑っていた。
え、手を出すって、アキちゃんってそういう……?
「あ、ほまちーだよね?」
え、ちがうけど……。
「わたし、るいぷる! 夢のハイテンションダンサーだよ。よーしくー!」
え、ぷるってなんだろう? 夢の? え、なに……?
「ほまちはさぁ」
うそ、ハマチみたいな呼び名で行く気?
「おい、勝手に話を進めるな。手を出す云々の誤解解いといてくれよ」
「あー、それ? うんうん、あきにいはあんま手とか出したりしなかったね。軟弱チキンボーイって覚えてね! 略してチキボーンで良いよ!」
あんまはおかしいし軟弱云々はひどいしチキボーンはもう無茶苦茶じゃないか。という一つ一つを丁寧に拾った突っ込みをしつつ、
「偶然前に会ったことのある人だったんだよ」と簡単に背景を伝えていた。
これはどちらだろうか。
自分が夜のお店に行ったことを曖昧にしているのか、私が夜職で働いていることを明かしたくないと考えている可能性があることを考慮したのか。
「なにそれなにそれろまんすのなにそれ」と騒いでいるるいぷるは、ぼやかした言葉には想像が逞しくなってしまうらしい。
アキちゃんが言外に「言って良いか?」と問うたような気がしたので、私は頷いた。
えーなになに今のアイコンタクト⁉︎ と尚想像が捗っているるいぷるの言葉は無視することにしたようだ。アキちゃんは一瞥もくれずに次の句を紡ぐ。
うん、私もその方が良いと思う。
「たまたま行ったお店で、ほまれが働いてたんだよ。『Three ducks』ってわかるか? るいぷるはここ地元じゃないから詳しくないかもしれないけど、歩いて駅まで向かう場合西松屋通るだろ? そこを曲がって少し奥に行くとあるお店で」
「あー、わかるかもー。えっ、そこってキャバクラじゃないの? あきにいチキボーンの癖にキャバいってドンペリ開けてるんかい!」
くぅー、やるやーん! とよくわからないノリでアキちゃんを肘で突いている。
キャバクラではなく、ドンペリは開けていなく、別にチキン云々は関係ないと、アキちゃんらこれまたひとつひとつ丁寧に返していった。仕事上の付き合いのある人の誘いで行ったことも添えて。
これは、女性のいるお店へ行ったことへの言い訳というよりも、チキン云々の部分を終わらせるためだろう。
ひとつひとつを終わらせていかないと、この子の話は次々に展開して言って収拾がつかなくなると思えた。