私が教える新人は
扉を開け放ち元気よく入ってきた女の子。
太陽を思わせるような明るい髪の毛に表情。
私を驚かせたのはあまりにも似ていたから。
長い髪をサイドテールにしている点が相違点か。
(マレ⁉︎ のわけはないから……)
「あ、来たね! のん、こっちー! 前に話したほまれだよ。強豪チームでテルセイラを任されてた達人! 太鼓の達人! ソータが指導係はずれるわけじゃないけど、ほまれも教えてくれるって。今日はソータ来てないし、さっそく教えてもらおう」
「はいっ! のんです! よろしくお願いします!」
のんと呼ばれた子の顔がぱぁっと綻ぶ。「楽しみにしてたんです」なんて嬉しいことを言ってくれているが。
ちょっと待って! 整理が追い付かない!
「えっ、あ、はい! よろしくお願いします! ちょっといのり、私達人ってわけじゃ……」
いのりは「謙遜しなーい!」なんて笑いながら私の背中を叩いているが、今テーマにすべきは他にあった。
マレによく似たこの子は……。
「のん、ちゃん……?」
「あは、良く呼ばれる愛称そのままネームにしました」
この笑顔も生き写しのよう。「のん」が愛称になる名前といえばいくつかあるだろうが、「のぞみ」もその一つだろう。
あの子が良く読み間違えられて不満を言っていた。双子で同じ意味、同じ読みの字を与えられていたマレ。希。
もう、間違いない。
「のんちゃんって姉妹いる?」
「? はい、双子の姉が」
「え? 姉妹いるって聞いたことあった気はしたけど、双子だったんだ?」
「いのりちゃんは会ったこと無かったっけ? ……無いか、あの頃あの子習い事していて一緒に遊んでなかったし」
「……お姉さんって、マレ? 習い事ってバレエ? 私、バレエやっていてマレと一緒だった」
今度はのんちゃんが驚く方だった。
私も押さえてはいるが、偶然がもたらした興奮はまだ冷めていない。
一緒にバレエに取り組んでいたこと。私は辞めてしまったこと。そのことでマレに寂しい思いをさせているかもしれないこと。今帰国しているマレと会って話したこと。
練習時間を使っているのは気になるが、とにかく一通り話して情報を整理し、お互いの混乱と興奮を治めたかった。
「へぇぇぇぇ……すっごい偶然。ほまれバレエやってたんだね。なんか雰囲気わかる」
とはいえ辞めた身だ。そこには何らかの背景があることは想像に難くないからか、いのりは控えめな感想を漏らした。
「マレからちょっと聞いたことあったかも……たぶん、発表会でも見かけてたかもです。マレがすごく懐いてた方ですよね?」
「うん。もったいないくらい慕ってくれていたと思う。マレを置いて辞めちゃったのに、未だに前と変わらずにいてくれているし」
そっか。バレエをマレに教えていた私が、今度はマレと双子の子にスルドを教えるのか。
私の隣で、私に倣ってスルドを鳴らしているのんちゃんに、幼い頃のマレが重なって見えた。