エンサイオにて
学校の都合もあったのと、楽器を取りに一旦自宅に戻ってから練習場に来た私は、この日は早い時間には参加できず、ちょうどミーティング前に会場に着いたのだった。というよりも、ミーティングの開始を私の到着に合わせてくれたのかもしれない。
他エスコーラに所属していた経験者とは言え、見学の段階を飛ばしていきなり入会するというのは珍しいようだ。
イベントなどで見知った顔もちらほらあるが、大多数は初対面となる。
サンビスタの中にはエスコーラの垣根を超えて友人知人の関係性を築いている者も多い。サンバという文化はその言葉の認知度の割には一般の人への浸透率は低い。その分、ある意味内輪的というか、サンビスタ同士は結びつきやすい傾向がある。
そういう背景の割に、私は所属エスコーラ外で関係性を築けているサンビスタはほとんどいない。前にいたエスコーラと『ソルエス』は立地的な環境もあり、共同でイベントに出るなど盛んな交流があったわけでもないこともあり、顔はわかっても名前まで一致しているメンバーはほとんどいなく、まして知り合いと呼べる人は居なかった。
前所属エスコーラ、サンバ歴、パートなど、丁寧に挨拶をした。
『ソルエス』は毎年数名ずつ新しいメンバーが増えているらしい。数名、と聞くと少ないが、サンバ業界全般でみると、規模の割に奮闘している方だと思う。倍以上の人数を抱えているエスコーラですら、新規メンバーの加入は数えるほどだったりするのが実情だ。
新規の参加者の少なさと併せ、若い世代の獲得も業界を通しての課題である。
学生チームを除けば、三十代でも若手というチームも多い。
そういう意味でも、新規加入メンバーが毎年一定数いて、その中に十代二十代も含まれているというのは、チームとしての可能性を感じさせる。
チーム全体に紹介するために、ミーティング時間を合わせてくれたとしたら、そういう細かいところのケアが行き届いているチームなのだろう。
してもらったことは、返していきたい。そう思わせてくれるというだけでも、個人個人が機能や能力を発揮したいと思えるチームなのだと思った。
「改めてよろしくね。登録ネームはそのまま『ほまれ』にしたんだね?」
「はい、『いのり』さんもですよね? 前のエスコーラでもそうでしたし、それで良いかなーと」
「うん、サンバネームなんだから『さん』とか無くても良いよ。呼びやすければつけたままでも良いけどね」
先輩ですしー。適宜使い分けます! と言った私に「いのり」は笑顔で頷き、
「で、ほまれに教えてもらいたい新人の子、もうすぐ着くって。会場前まで来ているみたい」
高校生の子だと聞いている。下校後そのまま練習に向かっているらしい。学校からここまで一時間程度。なんでも体育祭の実行委員になったようで、今日は放課後にその準備もあったようだ。
バテリアの練習場に戻り、改めてバテリアのメンバーに挨拶をしているところに、その新人の子が会場に入ってきた。
「こんばんわー!」
「……えっ⁉︎」
元気な声に、私が思わず漏らした驚きの声は掻き消されたが、混乱が消えたわけでは無かった。