会談
『ソルエス』のプレヂは東風治樹という『東風クリニック』の院長先生だ。
病院も『ソルエス』も、それぞれ先代から最近引き継いだばかりの、若き病院経営者でありエスコーラのプレヂデンチだ。
『ハル』のサンバネームでダンサーとしても活躍している。
男性のダンサーで特にスーツスタイルでパフォーマンスする『マランドロ』というタイプのダンサーだ。
以前に所属していたエスコーラにも同タイプのダンサーは居たが、ダンサー全体における割合としては少なかった。多少の差異は有れど、どのエスコーラでも似たような割合だ。
割合に比例するように、一般的にはあまり認知はされていなく、男性のサンバダンサーと聞くと驚く人も多い。
格好良いダンススタイルで見応えがあり、一般的なイメージのサンバダンサーである『コステイロ』(羽根飾り)と『タンガ』(ビキニのような衣装)で彩られた『パシスタ』(女性が中心だが、男性も存在する)とはまた異なった趣があり、マランドロのみのショーなどもある。(マランドロを女性がやる場合もある)
祷さんの手引きで、早々に会談が実現した。
ハードな役割を二足のわらじでこなしている人物のイメージと違わない精悍な印象のハルは、爽やかで感じが良く、チームに対しても良い印象を持っていたが、プレヂの人となりにも好感が持てた。
形式的な会談はすぐに終わり、雑談がてら具体的な手続きや今後の流れについての会話となった。
以前の所属チームのプレヂとは既に会話済みで、ハルからの連絡も済ませてもらっている。この場で入会の書類に必要事項を記入して提出すれば、入会の手続きは完了だ。
次のエンサイオにはメンバーとして参加させてもらうことにした。
「ハル―、即戦力だよ。スルドが分厚くなるの楽しみだよね」
「そうだな。基礎であり土台が厚く強くなることは、エスコーラの限界値を引き上げるに等しい。ひとは、可能性に楽しみを見出すものだ。可能性そのもの足るピースの加入は楽しみそのものの加入を置き換えても良いだろう」
「あはは。ちょっと何言ってるのかわからないけど、大歓迎って意味だよ」
祷さんに言われ、笑顔をつくって曖昧に頷いたが、まあ言わんとしてることはわかるし、歓迎してくれているということもわかった。祷さんはしっかりしているがハルさんからしたら結構年下だろうに、気安くやり取りしている様子は、良好な関係性が顕れているようで、そういう点でも好感が持てた。
「それでね、事前に誉と話してたんだけど……」
祷さんは先日の打ち合わせで生まれた企画について、ハルさんに話してくれた。
「面白そうだ。『ソルエス』主導の企画にしても良いし、誉や祷で組み上げていって、それに『ソルエス』として参加させてもらうという形でも良い。いずれにしても協力はさせてもらいたいから、具体的になったら是非声を掛けてくれ」
とにかく全面的な協力は得られそうで、心強い。
「あ、それと誉にお願いしたいことがあって」
自主練などの練習の際、新人のスルド奏者の指導係になって欲しいというお願いだった。そして、それを頼んで良いかというハルさんへの確認。
「のんか。誉が受けてくれるなら、是非お願いしたいな。ソータも仕事の都合で練習に早い時間から居られず、なかなか教えてあげられないことを気に病んでいたからな。本人にはこれから?」
「いや、ちょっと前に会うことがあって、そこで軽くは伝えてある。のんも教えてくれる人が増えるのは嬉しいって」
なら良かった、とハルさんは安堵の笑顔で頷いた。