一体感
「要ちゃんや誉ちゃんはどーなの? カレシいたっけ?」
アキちゃんに恋人候補を紹介する話は、こっちにも飛び火してくる。まあ予測はできた質問だ。
このご時世、職場などでこの質問をしたらセクハラ扱いだが、この場はやはり緩い。
とはいえ、むやみやたらにこのような質問は飛んでこず、このように流れの中でなされることが多かった。隙を伺って手を打っているのだとしたら、酔っている割に冷静だ。
その冷静さが残っているのか、強い意志なのか、それのお陰で、この手のお店ながら今のところ仕事中に性的な意味で不快感を感じることがあまりなく済んでいるのかもしれない。
「『みんなが恋人です!』みたいなごまかしはダメだからなー?」
たーくんが先手を打ってくる。
まあ別に隠すようなことはない。私も要さんも。
ふたりして「いませんよぉ」なんて回答をすると、「ホントにー?」なんてリアクションが返ってくるが、本当にいないのだから仕方がない。若干情けない気持ちになった。
「おお、ちょうどいいじゃないか」なんて言い始めたたーくんにアキちゃんが被せる。
「古い気風の会社やバイト先なんかでありがちな、古参のおじさんおばさんが、結婚してない若手見つけた途端手近な独身者を当てはめようとする感じみたいでなんかダサくないっすか?」
おお、アキちゃんの切れ味が一層鋭くなっている。
言下に言った言葉には、言外に私や要さんへの波及を防ごうとする意図があるように感じた。
この場で、たーくんにそこまで切り込める人はいない。やまさんですらもう少しオブラートに包む。
しょーちゃんを彷彿させる切り返しに、何故かたーくんは嬉しそうだ。
男性でも女性でも、部下でも取引先でも、根っこの部分の礼節はわきまえつつ、表層の部分は距離は近く遠慮なくっていう関係性が好きなのだろう。
それともうひとつ。
たーくんのアキちゃんを見る眼差しには、息子、というよりは歳の離れた弟でも見るかのような慈しみがたまに現れているように感じていた。
いつもは少し距離をとっているアキちゃんが、今はこの場のみんなが家族のようにひとつの話題で盛り上がっている。そのことにも喜びを感じているのかもしれない。
「そーですよ! 誉ちゃんは絶対ダメですからね⁉︎」
だいぶお酒が回っているようで、顔を真っ赤にしているケージくんがたーくんに抗議している。ユーキくんからは、「お前どの立場よ」と言われても、「ダメなものはダメ!」とやや埒が開かない。
「ちょっと、私はいーの?」
ケージくんは要さんにすごまれ、「あ、要ちゃんも」と取ってつけたように言い、「遅い!」とやられている。
「まあでも、実際のところ、アキちゃんは出会いには困って無さそうだよね」
「そんなことはありませんが……」
やまさんが穏やかに言いながら、アキちゃんのグラスにボトルを注ごうとすると、要さんが「私が」とボトルを譲り受け、その作業を引き継いだ。アキちゃんはグラスを差し出し、要さんに軽く頭を下げる。
「あー、暁さんならそうですよね。サークルの方もあるし」
妙に納得した顔で言うユウキくんに、「いや、そっちも無いですって」と、アキちゃん。
アキちゃんは何らかのサークルに所属しているのか。
その辺の話を深堀したかったが、話題はアキちゃんから私と要さんに相応しい相手はどんな人物か、という話題にシフトしていった。
まあ「宝くじ当たったらどうする?」に近しい属性の話題だ。私たちは好き勝手な理想を言い、男性陣が嘆いたり喜んだりするおふざけみたいなこの場を楽しむだけの会話。
アキちゃんは一息ついたような感じを出しながら、ナッツとチーズを交互に齧っている。自分の番は終わったと言わんばかりの様子だ。
油断してるならまたぶっこんでやろうと思った。