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7.インフルエンサーの化けの皮

『改めて見たら、みっぴーそんなに可愛くない気がする』

『なんか俺もそんな気がしてきた』

『目つき悪いよな』

『てか、配信してる時の舌打ち多くね?』

『多いけど、なんで今まで気づかなかったんだろう』


 大人気Dキャスターの追悼スレッドなのに、なぜか死者の名誉を傷つける書き込みが主流になってした。


 確かに俺自身、この女の配信を見ても好感が持てる相手とは思えないのだけど。そもそもこいつ、なんで人気になった?


「灯里ちゃん。この子のスキルはなに?」

「気配探知。そう言ってました」

「それ、嘘ね。この子の本当のスキルはきっと、魅了よ」

「え?」

「ダンジョン内で一緒にいる人や、配信を見てる相手を自分に夢中にさせるスキル。投げ銭を稼ぐのには有効ね。それに配信を見てる人が多くなれば、周囲のモンスターの気配に気づく人も出てくる。それを拾って、自分も察知していたって言い張ればいい」


 桃香が配信画面を見ながら推理した。

 コメントに乗っかって自分も気づいてたと言っても、視聴者たちは女に夢中だからそれに気づかない。さすがと思ってしまう。


「あー。だから配信が切れたら、メタルアントが近づいても気づかなかったんだ……」

「元の性格があんなのでも、隠してインフルエンサーになれたんだからすごいスキルだよね」

「だねー。本人が死んじゃったから、効果が切れて本当の姿にみんな気づいちゃった。わたしたちは魅了とかされなかったけど」

「配信だとごまかせても、本人を直接知ってたら幻滅しちゃうくらい傲慢な人だったから、みっぴーさん」

「そっか。そう考えると、そこまで強力なスキルでもなかったのかな……おっと。事務所からメッセージ?」


 亡きみっぴーの印象を話し合っていた灯里だけど、通知に気づいてスマホを見た。


「うえー。呼び出しかー。まあそうだよねー。あんなことあったら、そりゃ会社に来いってなるよねー。よし。折付くん。桃香さん、今日はありがとうございました! ちょっと用事が出来たので抜けます!」


 ペコリと頭を下げる灯里。もちろん、そのまま行かせる程、俺は薄情じゃなくて。


「送ってくよ。帰り道に何かあったら、嫌だし」

「え? でもワープですぐ帰れるよ?」

「ポイント間にモンスターが出たら倒さなきゃいけないだろ?」

「まあそうだけど。気をつけてたら危険はないんだよね。葵もいるし。でも、お願いします!」


 その十数分後。


「うわあぁぁぁぁ! オーク!? こんな所に出たっけ!?」

「たまに出るな。用心してないキャスターがやられるのは、よくあることだ」

「ひえぇぇ! お助けー! わ、わたしは食べても美味しくないです! 折付くんの方が美味しいです!」

「おいこら」


 なに言いやがる。


 ワープポイント間でモンスターと出くわしたら、灯里はこうなってしまう。確かに、そこまで便利なスキルでもない。


 俺は落ち着いてオークと対峙。別に慌てるような相手ではない。

 一瞬で相手との距離を詰めて、俺より少し上背のある敵の懐に潜り込んで喉を一突き。

 この程度、エンチャントを使うほどでもない。


 ドロップはオーク肉。焼けば割と美味い。持って帰るか。


「ほらお姉ちゃん。オーク倒したよ。次のワープポイントはどこ?」

「うぅっ。こっちです……」


 灯里はワープポイントの位置だけは完璧に把握していて、あっという間に地上に近づいていく。

 上の階層に上がるに連れて、人通りが多くなっていく。浅い階層は強いモンスターが出ることも少ない。その代わりにレアドロップが出る見込みも薄いけど、レジャー感覚で狩りを楽しみ配信をする者か多い。


 そんなDキャスターたちの視線が、妙にこちらに向いている気がする。ザワザワと人の話し声も聞こえた。


「ねえ。あれって」

「間違いない」

「メタルアント単独討伐したっていう、あれ?」

「謎のレスキュー隊員」

「隣にいるのはあかりんと葵ちゃんだ」

「あのふたり付き合ってるのかな?」

「格好いいよねー」

「ねえ。声掛けに行ってよ」

「嫌よ。あなたが行きなさいよ」


 なんか噂になってる。一部、とんでもない勘違いも流布してるらしい。なんだよ付き合ってるって。こいつとは、ただのクラスメイトだ。


 それは地上でも変わらない。ダンジョンの入口の穴の周りの土地には、ドロップ品やアイテムを買い取る業者や販売する商店が並んでいる。

 さらに集まってくる人を目当てにした飲食店や、各種の店や屋台がいつくもあり、ちょっとした繁華街のような賑わいを見せていた。

 管理者であるD-CASTの支店も、この近くにある。


 そこにいる人たちが、俺の姿を見てどよめいたり黄色い歓声を上げたり。


「折付くん、すっかり有名人だねー」

「なんだよこれ……居心地悪い」

「慣れたほうがいいよー。これからたくさんの人に話しかけられるから」

「慣れ……るのか? いや。俺は裏方だ」

「もう表舞台の人だよー」


 灯里がニヤニヤ笑いながらからかってくる。

 そんなこと、あってたまるか。

 バスなんてネット上では毎日のように起こってる。俺もそのひとつに過ぎない。いつかは他の話題に上書きされて、過去の人になって忘れ去られるはずだ。インフルエンサーの化けの皮が剥がれて関心が失われていくように。

 そうなってくれ。


 有名人? 俺にはそんなの似合わない。


「じゃあ、わたしたちはこれで。折付くん、また明日学校で」

「おう。また明日。葵もまたな」

「はい! 今日はありがとうございました!」


 ペコリと頭を下げる礼儀正しい葵と、ブンブン手を振る灯里を見送った。


 よし。俺も帰るか。

 ガレージに。



 あれが俺の帰るべき家。

 昼間学校に行く以外はダンジョンに閉じ込められている。それが俺の置かれた立場だ。



 思いもよらず一旦外出してしまった。けど、普段は学校帰りにやってる日課のトレーニングがもう一度できると考えれば、悪くはない。

 相変わらず集まってくる視線に居心地を感じながら、俺はスマホのストップウォッチをスタートさせ、ダンジョンの中に飛び込んだ。

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