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61.ハイパーポーション

「灯里! 見ろ! これ!」

「んー。なに? 朝から大騒ぎして」

「誰かがハイパーポーションを届けてきた」

「うえぇっ!?」


 バタバタ足音を立てながら、パジャマ姿の葵が駆け寄ってきた。そして俺が持っているものを見て。


「は、ははははは! ハイパーポーション!! ほんとだ!!」


 ガレージ内に響くような大声を出した。だからみんな起きてきた


「な、なんでこんな所に!? 届けてくれたって誰が!? なんで!? わかんないんだけど!」

「お、おおおおお姉ちゃんこれあれだよ! なんか詐欺的なやつだよ! 使った後に金払え的な!」

「ふたりとも。落ち着いて」

「うん……」


 どんな時も落ち着いてる陽希はすごいな。思わず全員が落ち着いてしまった。


「克也。送り主は誰なの?」

「……親父だ。手紙もついている。読むぞ」


 あのクソ親父が突然出てきたことに、俺の顔が険しくなったんだろう。みんなに一瞬緊張が走った。

 なんでもない風を装い、手紙を読み上げた。



 内容を要約すると、こうだ。


 例の配信によって、世界中の会社や研究施設がダンジョンに興味を持った。日本の場合はダンジョン研究の窓口をD-CASTが担うことになるし、多くの業務提携や投資の話が既に来ている。

 親会社であるM-CASTの株価も急上昇しているとのこと。


 これから忙しくなるから覚悟するように。


 今回の会社への貢献に対する感謝として、必要な物を送る。




 それから、最後にこう付け足されていた。


 チャンスを掴んだな……と。




「あのクソ親父……」


 灯里たちの事情を把握しているのはいい。贈り物としてはぴったりだ。

 気に入らないのは、俺をまだこんな場所で働かせ続けようとしていること。

 会社の方針に勝手に背いたことを、このクソ親父は寛大な心で許したらしい。想定していた以上の利益を会社にもたらしたから。

 そしてさらに働けと言う。一億円するポーションに見合った仕事をしろというメッセージだ。


「いやー。助かったわ! わたしもクビ覚悟でやったことだけど、結果的にうまくいったわね!」

「ああ。そうだな……」


 ここの社員である桃香も、仕事を失わずに済んだ。それは間違いなくいいことだけど。


「ね、ねえ克也。このポーション、お母さんに渡していいかな?」

「ああ。もちろんだ」

「ありがとう! よし! みんなで行こう! 病院まで! お母さんにみんなのこと紹介しなきゃだから!」

「……そうだな。行くか」


 それに異存はない。

 今日も、みんな揃ってズル休みすることになってしまった。


 ダンジョンの最寄り駅から電車で十五分ほど。

 少し古めかしい総合病院に、灯里たちの母は入院しているという。

 何度も訪れているのだろう。受付に軽く挨拶してから、慣れた様子で病院内を歩く。


 衛藤というネームプレートが他のいくつかの名字と並んでいる大きな病室に迷いなくたどり着いた。


「あれ? 他に誰か来てるのかな?」


 灯里の視線の先、カーテンで仕切られたスペースの中から話し声が聞こえた。

 妙に聞き覚えのある声。おい。まさか。


 駆け寄ってカーテンを開けると、中にいたふたりの人物がこちらを見た。


 ひとりはベッドに横たわっている女。やつれていて肌も荒れているけれど、元はかなりの美人なのが伺える。どことなく、灯里や葵に似ている気がした。この人が病気の母親か。

 そして、彼女と親しげに話していたのは。


「克也。お前も来たのか」

「親父。なんでこんな所に……」


 M-CASTグループの会長にして俺の親父、折付克彦だった。


「え? ええっ!? この人が克彦のお父さん?」

「旦那様、おはようございます。いらっしゃるなら連絡くださればいいのに」

「桃香さんはこのお父さんの何なんですか!?」

「お姉ちゃんそれよりポーション」

「そうだった! お母さん! これ見て! ハイパーポーションです! 飲んで!」

「事情はちょっと複雑なんだけど、わたしたちが頑張った結果でもらえたものなの!」


 こんな高価なものを差し出した娘たちに、母は優しい笑みを見せた。


「ええ。知っているわ。ふたりのこと、克彦さんからよく聞いていますから。わたしのために苦労かけちゃつたわね。ごめんなさい」


 娘たちの頭を撫でてから、ポーションを飲み干した。

 こころなしか、肌のツヤが良くなった気がする。病気は治ったのかな。


「もう大丈夫よ。後でお医者さんを呼んで検査してもらうけど……胸の苦しみが嘘みたいに無くなった。ふたりのおかげ。それから……あなたたちのおかげ。ありがとうございます」


 灯里たちだけではなく、俺にもしっかり目を合わせて頭を下げた。


「朱音さん。病み上がりなのは変わらない。安静にしていなさい。医者は私が呼ぶから」

「おい親父。これはどういうことだ。灯里の母親と随分仲が良さそうだが」


 お互いに名前で呼び合う関係。ただの知り合いではない。


「克也。報告が遅れてすまなかった。父さん再婚するんだ。彼女と」

「……は?」

「え? ちょっ!? お母さんが克也のお父さんと結婚!? てかお母さん、どういう関係なの!? この人すごいお金持ちなんだよね!?」

「朱音さんは、私が会社を作った時に、システム構築を手伝ってくれた外部の会社の人なんだ。何度か打ち合わせしているうちに仲良くなったけど、お互い別の人と結婚したから。……会社同士の関係は今も続いていて、いい友人として付き合ってたのだけど、お互いフリーになったから……」


 なんだと。

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