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51.ルイスの野望

 ガレージ内に戻ると、灯里たちが待ち構えていた。


「ごめん。騒がせた」

「ううん。いいよ。親との関係って複雑だもんね」


 灯里が、気にしないでとばかりに手を振る。それから。


「ねえ。これからどうするの? お父さんの言う通りのやり方で、明日降りていくのは嫌だよね?」

「もちろんだ。だから俺たちで、この五人で第十三層に入ってホーリードラゴンを倒す。半日ほど早くな。ハイパーポーションは灯里にやるよ。お母さんに使ってくれ」

「え……あ。うん。ありがとう。それは嬉しいけど、この五人であのゾンビを、その、殺して。ホーリードラゴンも倒すの? できるの?」

「できる。ゾンビもできるだけ殺さない方法でやる」

「わかった。わたしも協力する」


 多勢の人に狙われて、自分でハイパーポーションを手に入れるのは困難だと思っていたのだろう。せっかく見つけたチャンスを諦めかけていた灯里は前のめりになって尋ねた。

 葵も陽希も乗り気のようだ。


「やるぞ。俺たちでハイパーポーションを手に入れて、あのクソ親父の目論見をぶち壊す」



――――



「なるほどね。明日の夜か。待たせてくれるね」


 社長とその秘書がいなくなったスターライトキャスターの社屋に戻ってきたルイスもまた、ホーリードラゴン発見のニュースを知った。


 大量のスケルトンが押し寄せる乱戦の場に社長と冴子を助けに飛び込むほど、ルイスは無謀な男ではなかった。

 助けた方が特になると判断したら実行しただろう。けど、今回は見捨てて撤退した方が成功だった。あのふたりから連絡はなく、どうやら死んだらしいから。


 あの性悪女を恋人として押し付けてきた社長をルイスは許さなかったし、こちらへの好意を示してくる年増女の秘書ともさっさと別れたかった。


 あの女はルイスの好みからは外れていた。彼はもっと年下が好きだった。

 例えばあいつ、衛藤灯里とか。あれは、顔は良かったが体が貧相すぎるのが残念だ。足は綺麗だったが。みっぴーと一緒に死ぬのが惜しいと思ったが、生きてくれたとは。事務所をやめなければ、俺が世話をしてやったのに。


 ルイスは灯里が去ったことを、さほど残念には思っていなかった。

 他にも事務所には若い女はいくらでもいるし、これからも入ってくる。

 そしてワンマン社長とその秘書が死んだ今、自分がこれからの会社の意思決定に関わる立場に立てるとルイスは考えていた。

 会社の権力を握れば、あとは所属タレントに手を出し放題だ。


 社長の後を継げる人間がいないわけではない。会社には形だけとはいえ幹部会がある。次の社長はその誰かから選ばれるだろう。

 ルイスの目標は、その幹部会に入ること。さらにそこで権力を振るえるだけの実績を作ること。

 みっぴーの彼氏として人気だっただけでは少し弱い。そこにホーリードラゴンの出現だ。


 自分がハイパーポーションを手に入れればバズる。会社にも多大な利益が出る。会社内の力関係にも有利に働くし、名ばかり幹部連中もルイスのやることに口を出せなくなる。幹部の仲間入りも容易い。


 やろう。ルイスは決断して次の瞬間には、銀の指輪をはめた手でメッセージアプリを起動。仲のいいキャスターに連絡を取っていた。すぐに既読が付き、了承の返事が次々に来る。


 ひとりが電話をかけてきた。


『ようルイス。ついに俺たちの時代が来るのか?』

「ああ。スタスタじゃ僕たち男のタレントは冷遇されてきたからね」


 あの社長がみっぴーの成功に気を良くして、同じような女タレントの育成ばかりに力を入れてきた。声をかけたのは、そんな会社の方針に割を食っていた男たちだ。


『お前、次期社長でも狙ってんのか?』

「気が早い。だがいずれは考えているさ」

『お前が社長になれば、女のタレントに手を出し放題だよな!』


 電話の向こうで男がゲラゲラと笑う。

 冷遇されてきた事実は、別に彼らの人格を保証するわけじゃない。そこにあるのは、売れたら下衆な願いを叶えたいという醜い欲望だけ。

 ルイスも同じ欲望を持つ同類だった。


『それでルイス。作戦は? ライバル多いぞ?』

「馬鹿正直に明日の夜まで待つことないさ」


 D-CAST社が明日の夜を指定したのは、学校や仕事終わりのキャスターも参加しやすく、配信の視聴者も多くなり盛り上がるから。

 だが、該当階層に行くこと自体は自由だ。フライングしてさっさと掠め取らせてもらおう。



――――



「やっほー。オペ子、ちょっと相談があるんだけどさ」

『オペ子ではありません』

「ごめんごめん。ねえ。社長の方針どう思う? オペレーター部でも、みんなひどいって思ってたりしない?」

『それは……そうです。さすがにあれは横暴だとみんな言ってます。オペレーター部としても、明日急に忙しくなるのは困ります』

「だよねー。それで相談なんだけどさ。本社とか支店のお偉いさんたちには内緒で、現場のみんなにちょっと手伝ってほしいことがあってさ」


 桃香とオペレーターの会話を、俺も聞かせてもらっていた。

 現場の人員も会長命令には困惑しているらしい。だから、俺の計画に協力を要請すれば応えてくれる。桃香の目論見は成功しそうだった。


 それから灯里が、例の配信のホーリードラゴンの箇所を繰り返し見ていた。

 倒すべき相手の研究なんだろう。


「なにかわかったか?」

「全然」


 まあ、期待はしてない。


「ホーリードラゴン、寝てるなーとしか」

「みたいだな」


 寝そべっている状態でも、ドラゴンの胴の高さはゾンビたちの身長の倍近くある。だから三メートル半とかだ。

 頭から尻尾までピンと伸ばせば全長二十メートル弱。翼を広げた幅は十メートルほど。


 その巨体が、ゾンビに囲まれながら体を丸めて翼も畳んで眠っていた。


「ゾンビが引き寄せの炎で騒ぎ出しても眠ったまま」


 動画は電波切れかけでしばしば途切れるし、逃げる男はドラゴンにカメラを向けたわけでもない。

 でも一瞬映るホーリードラゴンは、確かに微動だにしてない。


「すごく眠たかったのかな」

「どうかな」


 正解がわかるはずもない。


「そもそもゾンビとホーリードラゴンの関係ってなんだろう。なんか、ゾンビたちが守ってるように見える」


 確かに。けど、今の段階でわかることは何もない。


「明日は朝早いから。もう寝ろ。万全の状態で挑むぞ」

「はーい」


 みんな、今日は早めに眠ることにした。

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