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5.対ゴブリン戦

 光が消えると、俺たちは全く違う場所にいた。同じ第八層だけど違う風景。スマホの地図を見ると、瞬間移動としか思えない位置に来ていた。

 近くで配信中だったらしいDキャスターが、突如出てきた俺たちに驚きの表情を向けている。


「あ、どうも。失礼しました。折付くんこっち!」

「おい! 待て!」


 救難要請があったというDキャスターの位置からは、かなり離れてる。というか近づいてない。

 けれど灯里の動きに迷いはなく。


「えっと次は……こっちだ! ワープ!」


 また移動。さらに少し走って。


「もっかいワープ! 到着!」


 三回目のワープで、救助要請があった場所のすぐ近くまで来た。


「いやっ! 離れて! 誰か助けて!」


 女がひとり倒れている。そこにゴブリンが群がろうとしていた。


 ゴブリンは薄汚れた緑色の肌をした怪物。五、六歳ほど子供程度の体格をしていて、鋭い爪をもって獲物に容赦なく襲いかかる。特に女に対しては容赦なく、己の欲望のままに犯そうとする。

 実際、救助要請を出したと思われる女は服がボロボロに引き割かれていて、体のあちこちに切り傷ができて出血していた。


「エンチャント・(ウィンド)!」


 ゴブリンは小柄故に、体重が軽い。あの女との体重差を考えながら剣に風をまとわせて振る。

 まるで扇を振ったように、剣から強風が吹いた。ゴブリンたちが風圧に負けて吹っ飛んでいく。女の体も少し転がった。

 ゴブリンたちの多くは壁や天井に叩きつけられるか地面に落ちる。けど、威力を調整したからダメージはあまり無い様子だし、何体かは女の上で踏ん張っていた。


 耐えたゴブリンの一体に、光る矢が刺さった。葵が放ったのか。

 二本目の矢が放たれている間に俺も女のもとへ向かい、ゴブリンを蹴り上げて首の骨を折りながら女から剥がす。


「お姉ちゃん! 撮影してないで、この人を安全な所まで運んで!」

「でも! 今すごいコメントが来てるんだもん! がんばれとか! 折付くんすごいとか! あ! ほら投げ銭も来た! ほら見て!」


『エンチャントってなんのスキルだ!?』

『この数のゴブリンを一掃……だと!?』

『こいつ何者なんだ?』


「うるさい人の命がかかってるの!」

「うわーん! 妹が手厳しいです! 初めてのバズなんだから! もっと楽しみたい!」


 泣き言を言いながら、生きたゴブリンから解放された女の腕を掴んで引きずり敵から離していく灯里。本人が非力だから、あまり貢献できてるとは言えないけど。片手で持ったスマホで俺をしっかり撮ってるし。


 俺はといえば、女を背にしたから遠慮なく風を吹かせることができた。さっきと違い出力全開で振る。

 再度こちらに向かおうとしていたゴブリン共の体が宙を舞い、壁に叩きつけられて全身の骨を折ってドロップ素材になっていく。


 毛皮や棍棒といった、低レアドロップばかり。


「すごい……」


 葵の呆気にとられたような声が聞こえたけれど返事をしている暇はない。傷だらけの女の方に駆け寄って。


「怖かったよな。もう大丈夫だ。癒やせ、聖なる光よ」


 女に剣をかざしながら唱えると、刀身が温かな光を放った。彼女の傷が、あっという間に塞がっていく。


「へえー。すごい。回復もできるんだ。マジで何者? 今のはエンチャントじゃない? てか、こいつのスキルなんだよ。回復スキルは後で拾ったやつ?」

「お姉ちゃん黙って」

「違うもん! コメント読み上げてるだけだもん! Dキャスターならそれくらいのファンサービスするものでしょ! ほらほら!」


 灯里がスマホを見せてきた。本当にそういうコメントが次々に流れてきた。


「ごめんなさい克也さん。お姉ちゃん、こんなこと初めてだから舞い上がっちゃって」

「そうか。気にするな」


 回復させるのに邪魔になるわけじゃない。

 女の傷をほぼすべて癒やした。


「お待たせしました!」


 すると、複数人の駆け足の音が聞こえてきた。俺と同じデザインの作業着の集団がやってきた。そして無事そうな女と俺を見て、足を止める。

 顔見知りだ。レスキューに来たのだろう。俺とは顔見知りだけど、なんでここにいるんだと不思議そうな顔をしていた。


「なんか、ワープのスキル持ちのキャスターに協力をもらって、先回りさせてもらった」

「はい! わたしです!」

「そ、そうですか。ご協力、ありがとうございます!」


 真面目な同僚が灯里に対して敬礼。おいこら灯里。得意げな顔するんじゃない。間違いなくお前の功績だけど、こいつを調子に乗らせると良いことにならなそうだ。


「後は任せていいか? 俺は先にガレージに戻る」

「了解。もう大丈夫ですよ。立てますか?」


 女に声をかけながら助け起こすのを見ながら、灯里に向き直った。


「ここのガレージまで飛べるか?」

「うん。いけるよ。三回くらいワープすることになるかな」

「頼む。ワープスキル、便利だな」

「そうなんです! ちなみに葵は光る弓のスキル持ちだよ。折付くんは?」

「俺は全属性エンチャント。回復スキルは宝箱から見つけた」

「へえー! スキルって本当に宝箱から出るものなんだ! 噂には知ってたけど本物は初めて見たよー」


 珍しいらしいからな。ガレージまで、そんな会話をしながら帰ることに。

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