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49.クソ親父の横暴

 灯里と葵が、不治の病に侵された母のために探しているアイテム。それをもたらすレアモンスターが見つかった。


「お姉ちゃん。これ」

「うん。すごいチャンス。でもみんな狙ってる……」


 この姉妹だけじゃない。誰もが価値を知っていて欲しがるものが配信に映り込んだ。

 だから、金のために生前なんとかバズを追い求めていた男が、皮肉にも死後にバズる結果となった。


 灯里が震える手でスマホを操作してSNSを調べた。


『ハイパーポーション!』

『絶対欲しい』

『売れば一億なんだろ? 争奪戦になる』

『手に入れるところ配信したらバズる』

『パーティー組みませんか? 本気でハイパーポーション入手に動こうと思います。募集人員は――』

『なあ。あのドラゴン倒すのにどれだけの人員いるよ?』

『パーティーの人間多すぎても分前(わけまえ)無くなるからな』

『いや。一億円も魅力だけど、手に入れる瞬間を撮りたいんだって』

『そうすりゃ一躍有名人か。そっちのメリットもあるな』

『伝説のパーティーになると言っても過言じゃない』

『国内最大手パーティーが動き出したって聞いた』

『決めた。俺が絶対手に入れる』

『いや俺が』

『みんな一斉に押し寄せるぞ』

『周りに大量にいるゾンビをどうするかがネック』

『そんなもん殺せばいいだろ。既に死んでんだから』

『いやでも、生きてた人間にそんなことは』

『まあそれが普通の感覚だけど。一億とバズるチャンスだからな。そんなこと考えないでズバズバ殺す奴も大勢いるだろ』

『モンスター扱いだから、殺しても罰せられるとかはないです』

『俺はやる! やるからな!』

『でも、ハイパーポーション入手の瞬間を配信するにしても、電波安定してないよね?』

『たしかに。おいD-CAST。さっさとこの階層にアンテナ設置しろ』

『そうだぞ! 俺たちが儲けさせてやってるんだから! さっさと配信環境整えろ!』

『一応、近々降りていってアンテナ設置する計画があるって聞いたけど』

『近々ってなんだよ! すぐにやれ! 明日にでもやれ!』

『というか今夜やれ!』


「なんなんだこいつらは」


 金と自己顕示欲に釣られて盛り上がるのはいいけど、こっちに無茶な仕事をさせようとするな。

 未探索階層の調査は、ちゃんと段階を踏んでやらないといけないことなんだ。じゃないと社員の命に関わる。

 アンテナや詰め所の設置や、大型モンスターと戦うための装備や道具は前々から準備しているが、今から期日までの間にここに届く物も多い。


 探索には、各地のダンジョンからベテラン社員を招集して不測の事態にも対処できる万全の態勢で臨む。もちろんベテラン社員たちもそれぞれの職場の仕事があるから、当日に出張という形で来てもらう。そのスケジュール調整で、探索の日時が決まった面もある。


 来週行うと決まっていることには、ちゃんと意味があるんだ。

 すぐにやれと言われて出来るものじゃない。このコメントを打ってる奴らが何者なのかは知らないが、働いていたら当然わかるようなこと。


 こいつらが何を言おうが、十三階層にアンテナが入るのは一週間ほど後になるのは変わらなくて。


「およ? メールだ。なになに? ……げ。会長から」


 スマホに通知が来た。それを確認した桃香は心底嫌そうな様子。


 会長。このD-CASTのオーナーであり絶対的権力者にして俺の親父が、桃香に直接指示を出した。


「D-CAST本社に、来週の予定だったここの十三階層の探索を明日に早めるように命令したって。もちろん克也も同行するようにという指示が来てる」

「おい。嘘だろ。明日?」

「ええ。うちの社長の了承は取り付けたって。これは決定事項。今、大急ぎで準備しているはず」


 D-CASTの社長だって、親会社からの命令には逆らえない。

 SNSのD-CAST公式アカウントを見れば数分前にお知らせが掲載されていた。


 明日の午後八時より、社員による第十三階層への調査を開始する。社員は装備を整えているが、未知のエリアのために何が起こるかは不明。一般の探索者やDキャスターの同行に制限は設けない。


 こんな内容だ。


『ありがとうございます!』

『有能』

『俺たちの声が運営を動かした!』

『絶対行きます!』

『明日学校休んで遠征して駆けつけます!』

『助かる』

『判断が早い』

『D-CASTはんの優しさは五臓六腑に染み渡るで』


 ハイパーポーションが欲しい人たちのリプライが次々に投稿されていく。


「ふざけるな!」


 気づけば俺は、叫んでいた。


「現場が計画してたこと一方的にひっくり返しやがって!」


 勢い余って出た言葉は、もう止まらなかった。


「準備が必要なことわかってんのかあのクソ親父! うちの社長も社長だ上に媚びへつらう以外に能が無いお飾り社長が! この一週間で用意するはずだった人員も装備も道具も! 全部無しでやれってか!? その代わりに、金に目がくらんだ奴らが大挙して押し寄せるから大丈夫? 頼りになるかそんなもの! 大半が素人集団! しかも会社の指示に従う義理もない! 金欲しさにホーリードラゴンに突っ込んでいくだけだ! そいつらに何かあったら誰が責任とるんだよクソ親父! 奴らの子守まで俺にしろってか!? 無理に決まってんだろうが! 仕事にならないんだよ! なんでそれがわかんないんだわからないだろうな! ガキの頃からパソコン弄ってたら金持ちになった男だ現場なんて見たことないに決まってるよな! 椅子温める以外に体の使い方知らないクソ親父が出しそうな命令だよちくしょう今度会ったらぶっ殺してやる! 実の親だからって容赦すると思うなクソ親父!」


 思いつく不満全部、口から出ていたらしい。


 我に返れば、四人がじっとこちらを見ていた。全員が驚いた顔をしていた。ああそうだよ。陽希も驚いてるだろうさ。今ならわかる。

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