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46.スケルトンたちの狙い

 硬い床に激突する寸前、陽希の両腕に抱えられた。

 いわゆるお姫さま抱っこされている状態だ。


「えあっ!? 陽希!?」

「無事?」

「うん無事! 下ろして……ああ待って降ろさないで!」


 スケルトンがさらに数体、こっちに向かってきていた。陽希に抱えられたまま弓を放つ。普段と全然違う姿勢だけど、なんとかなるものだ。

 葵の狙いを邪魔しないように、陽希はゆっくり真っ直ぐ後ずさった。

 そしておかしなことに気づいた。スケルトンたちはこちらではなく、ロッカーを狙っているらしいことを。もちろん、人間であるこっちに襲いかかる個体もいるけど、半数くらいはロッカーにぶつかり、金属製の扉を開けようとしていた。

 そのスケルトンも開ける前に矢で頭を射抜かれたから、ロッカーの中に何があるのかはわからない。けど確かめる価値はある。


「陽希! ロッカーに近づく敵、蹴散らして!」


 頷いてから彼は走った。スケルトンの持っていた武器を奪って振り回す。ロッカー前の空間を守るように、スケルトンたちを次々になぎ倒していった。

 一撃を回避したスケルトンに、陽希は迷いなく踏み込んで肋骨の向こうにある背骨を握って片手で砕いて折った。


 その隙に、葵はすかさず駆け寄りロッカーの扉を開けた。そこには。


「ひぃっ!? 助けてくれ!」


 陽希の父親が隠れていた。


「どけ!」

「ひぁっ!?」


 彼はロッカーを開けたのがスケルトンではないと見るや、葵を突き飛ばすように飛び出て。


「ぎゃっ!」


 足の怪我を忘れていたのか、その場に倒れてしまった。

 スケルトンをあらかた倒した陽希が、憎むべき父親を睨みつけた。


「は、陽希! 助けてくれ! これを見てくれ! 宝箱を開けたんだ! 中身はこれだ!」


 小さな息子にすがりつきながら、男は手に持った何かを見せた。


 金属製のチェーンの先端に小瓶がついている。中には紫色の炎が揺らめいていた。


「何かは知らないがきっと貴重なものだ! 売ったら俺たちは大金持ちだ! だから! 助けてくれ! 一緒にここから出よう!」


 ダンジョンの中で見つけたアイテムを見せながら必死に訴えかけていた。


 葵はそれが何か知っていた。ダンジョン考察サイトに記事があった。


 モンスターを引き寄せる効果を持つものだ。紫色の炎は、アンデッド系モンスターに効果を限定するもの。

 つまりゾンビやスケルトンを大量に集めるアイテムだ。他にもマミーとかレイスとかもアンデッド系。


 首にかけたり鞄にぶら下げたりして、浅い階層を歩き回って弱いモンスターを狩ってドロップを集める。そんな使い方が推奨されるもの。こんな階層で持ち続けるのは自殺行為だ。


「陽希! それを外に放り投げて!」


 そう言われた陽希はすぐに反応。父の手から瓶をひったくると壊れたドアの方に駆け出して投げた。


「あああああ! やめろ! 俺の金が!」


 父親は、それを追いかけるように走る。またスケルトンやゾンビたちも、半数近くが瓶の方に向かっていった。


 多すぎる敵に苦戦していたみんなも、敵が半減したために勢いづいた。残ったスケルトンを次々に蹴散らしていき、ゾンビも詰め所の外に追い出した。


 一方、陽希の父はなんの考えもなく無防備なまま外に出てしまった。


「やめろ! それは俺のものだ! 俺の! お……」


 瓶に群がるスケルトンをかき分けようとして、剣を持った一体に煩わしそうに斬り捨てられた。


「がはっ! お、俺は……か、勝ち、組に……」


 死を前にして彼が何を考えていたかは知らない。

 直後にスケルトンは、彼の首に剣を突き刺して止めを刺した。



――――



 聞き覚えのある情けない悲鳴を聞いた俺がそっちに目を向けると、陽希がアンデッド引き寄せの炎を外に投げるのが見えた。

 スケルトンとゾンビばかりがなぜ集まるのかの理由を察した俺は、炎を追いかけようとしないスケルトンを斬り倒してから事務机の上に立った。


「目の前の敵を倒したら、みんな隠れるんだ!」


 敵の半数は外の引き寄せの炎に夢中になっている。こちらの気配を消せば、人間の存在を忘れて襲いかかることもなくなる。

 みんながスケルトンを次々に倒す中、俺は不幸にしてゾンビ化してしまった男女の体を蹴って外に追い出す。片方はどうやら、スタスタの社長らしい。


「克也これ使って!」


 桃香が投げた数本のハンドタオルを受け取り、ゾンビたちを怯ませた上で目隠しするようにタオルを巻いた。


 ゾンビは主に視覚で人間を探すから、それを奪えばこっちを見つけられない。自分でタオルを外す知能も持っていない。

 だから、こうすれば彷徨い歩くだけの存在に戻ってしまう。つまり、殺さずに無力化できる。

 音を立てればそっちに行くだろうけど。


 目隠しされたゾンビを蹴り続けて外に出すと、彼らも炎の方に向かっていった。炎が入ったら瓶を奪い合うスケルトンたちの音に反応したのか、炎自体に引き寄せられているのかどっちかは知らない。

 たぶん両方だ。


 気がつけばスケルトンはみんな倒されて、戦っていた者は物陰に隠れて息を潜めていた。俺もまた、ドアの横に隠れる。


「葵、瓶を射抜けるか? あの炎は瓶を壊したら消える」

「やってみる」


 この階層を出入りする者全員が通る階段前にスケルトンが群がっている状況もまずい。集まっている理由を消して、ある程度ばらけさせたい。


 スケルトンたちの様子をしばらく見つめていた葵は、強そうな鎧を着た者が他のスケルトンから強引に瓶を奪い取ったのを見つけた。

 手甲で覆われた手の中に握られているそれに、葵はすぐさま狙いを定めて矢を放つ。

 プリミラの玩具の力で強化された矢が、手甲ごと瓶を貫き炎を消した。

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