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44.詰め所の中で

 社長は怯えながらスケルトン兵たちを見ながら後退っている。

 腰にさしている剣の存在も忘れているのか、抜きもしていない。


 もしかしたら賢明な判断なのかもしれない。敵の数が多すぎる。

 スケルトンが三十体ほどいる。三分の一はただの歩く骸骨だけど、もう三分の一は剣を持ってるし残りはフルアーマーだ。

 おまけに、ゾンビも三体ほどいる。


 一斉に襲いかかられたらどんなベテランでも殺される。それこそ同じくらいの数の人数で戦わないと。

 社長ひとりで立ち向かったら瞬殺されるだけだ。


 それをわかっているかは知らないけど、社長は詰め所のドアを開けて中に逃げていった。当然、スケルトンたちは詰め所に殺到していく。


「あわわ! やばいやばい……」


 葵たちの方を見た。こっちは大量のスケルトンを相手に、一歩も引いてない。けど、さすがに詰め所を助けられる余裕はなさそうだ。


 その時、桃香から連絡が来たというわけだ。


「克也! 桃香さん! 早く来てください! なぜか知らないですけどスケルトンの数がやばいです!」


 スケルトン兵がドアをガンガン叩き、そこまで頑丈ではない壁に突進をかけていた。詰め所の中からも慌ただしい声が聞こえる。

 ドアが曲がって、僅かに傾いた。中で机やら棚やらでバリケードを作っているらしく、それだけでスケルトンの侵入が果たせたわけではない。壊れたドアの隙間から、中の誰かが弓で攻撃したらしく、素手のスケルトンが一体やられた。

 けど、後続のスケルトンが盾で身を守りながら再度押し入ろうとして、今度は成功。

 スケルトンが次々に詰め所に入っていった。


 なぜか、何もせず棒立ちでオロオロしているだけの灯里には目もくれず、奴らは詰め所に入っていった。



――――



「詰め所まであとどれくらいだ!?」

「もうすぐ! 一分以内!」

「急いでくれ!」

「これが全速力なのよ!」


 エンジンの轟音に負けないくらいに、俺たちは声を張り上げて話す。

 やかてこの階層の入口である階段が見えてきた。その手前で戦ってる陽希の姿も。


 奪ったらしい盾で鎧スケルトンの頭部を何度も殴打して叩き潰していた。その背後から別のスケルトンが迫っていたけど、次の瞬間には頭蓋骨に後頭部から矢が刺さって殺された。


 周りにはたくさんのスケルトンの残骸。既にドロップに変わったのも数えれば、相当数を倒してるはず。


「ふたりとも! 大丈夫か!?」


 鎧スケルトンの一体にバイクが接近。すれ違いざま、俺は熱を纏った剣で両断しながら尋ねた。


「はい! まだいけます!」

「……」


 陽希も頷いた。けど、小学生には過酷すぎる運動だ。


 接近戦ができない弓使いに、それを守る前衛職がひとりだけ。しかも灯里も守るために注意を払い続けないといけない。

 肉体的にも精神的にも負荷が大きく、いつ無理が来てもおかしくない。


「後は俺がなんとかする! ふたりは休んでてくれ!」

「でも! 詰め所の方も!」

「ああ! それも俺がなんとかする!」


 スケルトンを斬り殺し、その隣にいた別のスケルトンを蹴飛ばす。


「エンチャント・(ストリーム)!」


 スケルトン数体に水流を向けると、水圧によって骸骨はバラバラになった。しかし鎧を着た一体は耐えた。俺はすかさず踏み出してエンチャントを炎に切り替えて斬る。


 これが最後のスケルトンだったらしい。ただし、詰め所の外にいた奴限定で。


 詰め所からは激しい怒号と戦闘音が聞こえてくる。


「桃香!」

「ええ! しっかり掴まってて!」


 俺を乗せたバイクが発進。詰め所の壊れたドアまで真っ直ぐ突っ込んでいく。

 バリケードに使っていたらしい棚が倒れているのを見て、桃香は前輪を上げるウィリー走行でこれに乗り上げながら事務所内に突入。進行方向にいた不幸なスケルトンを轢き殺しながらブレーキをかけて停車。


 詰め所内は混乱の極みだった。さっき助けた大学生グループと数人いるD-CAST社員は自分の身を守るのに必死。整然と事務机が並べてあったはずの空間には、あちこちに物が散乱している。

 一緒に助けたはずの陽希の父の姿は見えなかった。どこかに隠れているのか?


 考えてる暇はない。とにかくスケルトンたちの数を減らさないと。


 近くにいた一体を切り捨てる。桃香もスパナを振って敵を殴打していた。



 振り返れば、葵と陽希もこっちに向かっていた。休んでほしい気持ちもあるけど、こっちも人手がないと守りきれない。ありがたかった。


 あと、灯里も慌ててついてきていた。



――――



「待ってー! 置いてかないで! ひとりにしないでください!」


 休んでてと言われてたのに、葵も陽希も詰め所の方に走っていく。ひとり放置されるのが怖くて灯里も追いかけたけど、よく考えれば今は詰め所の中の方が外より怖い。

 立ち止まるべきかちょっと悩んだけど、ひとりで外にいたら他のスケルトンが新しく来るかもしれないから、仲間の近くにいることにした。


 そして後悔した。激戦が繰り広げられている。


 ここはまずい。スケルトンに見つかったらそのまま襲われちゃう。なんとかしないと。戦うとか。


 やられたスケルトンのドロップらしい、安い剣を見つけたから拾ってみた。


「へ、へいへーい。スケルトンびびってるー? わたしに攻撃したら返り討ちにしちゃうから、襲わない方がいいよー?」


 なんて声をあげて威嚇したけど、無意味だった。

 それどころか、モンスターのひとりがこっちに気づいてしまった。


 少数だけいた、ゾンビだった。


「ひえぇっ!? なんでもないです誰か助けてー!?」


 剣を放り投げて駆け出した。けど数歩進んだところで。


「わぎゃー!?」


 大きなものに躓いて盛大に転んでしまった。


「いたた……もう。なんなの」


 自分を転ばせた物を見た。


 太った体を地面にうずくまらせている社長だった。

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