43.スケルトンの群れ
詰め所だってダンジョン内にある以上は、モンスターの攻撃に晒されることは想定している。
けど、モンスターは基本的に人間を視認して襲う性質を持っているから、詰め所には一切の窓つけずに外からは人間の存在を悟られない構造にすることで襲撃を回避している。これはうちのガレージも同じだ。
もちろん、中に入っていく所をモンスターに見られれば押しかけられるだろう。そのパターンか?
とにかく、急がないと。
――――
少し前。灯里たちは詰め所に向かって必死に走っていた。
「もう無理! 走れない! 走りたくないです!」
「お姉ちゃんしっかりして! てか配信中だよ!? そんな情けない姿見せていいの!?」
『これがあかりんの良さ』
『頼れないのがかわいい』
『情けないのが魅力』
『泣き虫かわいい』
「ほらー! コメントもこう言ってるし!」
「言われて喜ばないでよ!」
「あ、あの! 前! スケルトンが!」
「陽希!」
「うん」
大学生のひとりが、こっちに向かってくるスケルトンの存在を教えてくれた。陽希が即座に前に出て、数体いたスケルトンを一瞬で殴り殺す。
ううん。スケルトンはアンデッドで、もう死んでる存在だから、もう一度殺すっていうのも変な言い方だけど。
とにかくもう少しで詰め所だ。さっきからスケルトン兵に何度か襲われてる。この階層には多いのかな。
一緒に逃げてる五人組は経験ある探索者。それの協力もあって危なげなく撃退できている。
「つ、疲れたー! とうちゃーく!」
階段が見えた所で、灯里はその場で座り込んでしまった。
「到着じゃないでしょ! 建物に入ってからが到着!」
「でも! 疲れたもん! 周りにモンスターいないから、もう着いたも同じじゃん! もう走りたくないです! てか動けないです! 陽希くん背負って! 運んで!」
「はーい。皆さんあの事務所に入ってください。皆さんが来ることは中の人もわかってますから」
救助された六人が詰め所に走っていく。助かったと安堵している様子だった。
それに葵と陽希もついていく。チラチラ灯里の方を見てるけど、置いていく。
「あ! 待って! 運んでください! うえーん!」
疲れたと言いつつ、情けなく声をあげながら動くのだから、これで正解。ちゃんとみんなで詰め所に隠れればそれでおしまい。たぶん克也たちも無事に戻ってくるだろうし。
なのに邪魔が入ってきた。しかも、一番会いたくなかったやつ。
「あかりん!」
「うえぇ!? 社長!?」
階段を降りてきたところらしい。スタスタの社長がこっちの姿を見るや満面の笑みになって駆け寄ってきた。
「あかりん! うちの事務所に戻ってくれ! 誤解があったんだ」
「ちょ! 来ないで! 戻りませんから!」
直前まで疲れたと座り込んでいたけれど、それどころではなくなった。猛烈な勢いで立ち上がって、でもどこへ逃げればいいのかわからずオロオロして。
灯里と社長の間に陽希が立ちふさがった。そして社長を睨みつけた。これが敵であることは陽希もよくわかっている。
そして葵は。
「お姉ちゃん! そこから動かないで!」
「え? うん! ……なんで?」
「一ミリも動かないでね!」
そして灯里の方に弓を向けて、放った。
「いやいやいや! なんで!?」
叫ぶように問いかける灯里の横を矢は通り抜けて、彼女の後ろにいたスケルトンの頭を貫いて殺した。
さっきのと同じように鉄製の鎧で全身を覆っていたけど、葵の弓の前では無力。がちゃんと金属音を立てて倒れてドロップへと変化した。
「え。あ。助けてくれたの?」
「うん。後ろから来てたから」
「葵ー!」
「葵くん! 君も一緒に事務所に入らないか!?」
「ひええ!? 社長! うちの葵はあげませんから! わたしも戻らないですけど!」
「ふたりとも。あれ」
姉妹で近づいてくる社長と対峙していると、陽希がブレザーの袖を引っ張ってきた。
指さしたのは、さっきアーマースケルトンが来た方向。なにか音が聞こえる。足音と、骨がぶつかるようなカラコロという音。
暗いからスマホのライトで照らすと、スケルトンが大量に押し寄せてきていた。数十体はいようか。ただの骸骨もいれば、剣や盾を装備している者もいるし、さっきと同じくフルアーマーのもいた。
「ちょっ!? なにあれ!?」
「お姉ちゃん下がってて! いざとなったらワープで逃げる準備して!」
「う、うん! ほら社長さん話し合いどころじゃなくなったので逃げてください! 葵と陽希くんはわたしを守るので精一杯なので! 社長まで守る余裕ないので!」
「お姉ちゃん堂々と情けないこと言わないで!」
怒りながら、葵は次々に矢を放つ。攻撃されていると見たスケルトン兵たちが葵に向けて駆け出したが、そこに陽希が立ちふさがった。
剣を持ったスケルトン兵が陽希に斬りかかったけど、彼はそれを回避しながら肉薄して、一撃で骨をバラバラにした。そいつが手放した剣を奪ったと思えば、鎧で重武装している兵士に向けて振る。
剣術もなにもない力ずくの動き。しかし鎧のスケルトンを倒すだけのパワーはあった。
陽希がそのスケルトンを鎧ごと持ち上げ、振り回す。周りの敵をなぎ払っていった。
「よし! いいよいいよ! でも数が多いから無理しないで! 頑張れー!」
「お姉ちゃん! 応援以外にもなにかやって!」
「そんなこと言われてもー! えっと! 社長さんに協力してって言うのは借りを作るみたいで嫌だし……てか社長どこ?」
さっきまで近くにいた彼の気配がなくなったことに、灯里は不思議そうに周りを見回した。
すぐに見つかった。詰め所の近くまで来ていた。スケルトンたちを見て、とりあえず屋内に逃げれば安心だと思ったのかな。
「や、やめろ! 来るな! 助けてくれ!」
そして、別方向から来たスケルトンやゾンビに襲われていた。
え? なんでそんなにモンスター来るの?