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42.ダンジョン・オブ・ザ・デッド

 その名の通り、血の気を失った肌をしていて、人間を見つければ襲いかかる生きた死者。ちなみに走るタイプで、かなり狂暴な表情をしている。


 ダンジョン内に出てくるモンスターの一種であるゾンビだけど、突如として湧いてくるように出現する他のモンスターとは違う性質を持っている。


 彼らの多くは、元は人間だったはずだ。ダンジョンに潜って、不幸にもゾンビに襲われて死んだ人間がゾンビになる。


 どうやらゾンビは、仲間を増やすために人間を襲っているらしい。

 映画で見るような、噛まれたり引っかかれたりしただけではゾンビ化はしない。ゾンビ化の条件は、ゾンビに殺されること。そしてゾンビになった人間を元に戻す方法はない。

 ポーションでも治癒スキルでも無理だ。そもそも死んだからゾンビになったわけで。ゾンビ化が治っても普通の死体が出来るだけではと言われている。


 ゾンビ化すれば知性は大幅にダウンするけれど、生前に持っていたスキルや装備は残っているらしい。だから場合によっては強敵になりえる。しかも群れる。


 そうじゃなくても、人間を攻撃することへの忌避感から、多くの探索者がゾンビと戦うことをためらう。


「ゾンビかー。わたしも元人間とは戦いたくないなー」

「お姉ちゃんはそもそも何とも戦ってないでしょ?」

「そ、そんなことないよ!? わたしだって色々戦ってるよ!? なんかほら! 現実とかと!」


 仲のいい姉妹が言い争っているのを聞きながら、要請したパーティーのところへ走る。本当に近くだった。

 大学生くらいの男女混合パーティーと、陽希の父がこっちに来ていた。

 父は足を怪我したのか引きずっている。それでも俊足スキルのおかげで相殺できているのか、なんとかゾンビから逃げられている。

 いずれは疲労で追いつかれるだろうけど。


「た! 助けてー!」

「克也さんだ! 助かったぞ!」

「克也さんファンです! 今度コラボしてください!」

「その話は後だ!俺の後ろにまわれ!」


 大学生パーティーが俺を見て呑気な感想を口にするのに呆れつつ、俺は彼らとゾンビの間に立った。そこに、怒ったような顔つきのゾンビたちが殺到。


 奴らは人間を見れば見境なく襲ってくる。殺すのは大学生でも俺でも変わらないって考えている。


 いいさ俺を狙え。殺させはしないけど。


「エンチャント・水!」


 剣から大量の水を放ってゾンビたちを水圧で押し流す。洞窟の通路が川のようになった。


「灯里と葵と陽希で、この人たちを階段横の詰め所まで連れて行ってくれ!」

「うんわかった! ……階段横? 社長が来るはず」

「それどころじゃないだろ!」

「でもー! わたしにとっては社長と鉢合わせするのも嫌なんです!」

「お姉ちゃん早く行くよ!」

「ひぃんっ!? うわーん! 妹がいじめてくるー!」


 葵にお尻を叩かれて、灯里も渋々走り出した。


「あの! せめてワープ使わせてもらえないでしょうか!?」

「お姉ちゃん、この人数を一度にワープさせられる?」

「厳しい! 知り合いだったとにかく初めましてさん五人は無理!」

「じゃあ走って!」

「えーん! てかあれ!? 桃香さんは!?」

「わたしとバイクは克也と一緒にいるから、スマホのライトで照らして走って!」

「うわー! 洞窟って暗い!」


 やかましく走りながらも、灯里たちは遠ざかっていく。


 ゾンビは俺が出す水流に流されて、こっちに近づけないでいた。もちろん、こっち側にも水は流れてきて、俺たちの足元は水浸し。というか本当に川みたいになってきた。


「桃香。これバイク走れるのか?」

「もちろん! こういう時のためにチューンナップしてきたのよ?」

「さすがだな!」


 なおもゾンビを押し流す。数が多い。見たところ五十体ほどいる。どこから来たんだ。


 映画のゾンビと同じように、こいつらは首を切り落とせば死ぬし俺にとっては難しいことじゃない。けど、俺もまた元人間のゾンビを殺すのには忌避感があった。甘いと言われるかもしれないけど、こうやって押し戻して対処できるなら、そうしたい。


 どれだけ時間が経ったかな。


「灯里ちゃんたち、詰め所まで来たって!」

「よし! 桃香頼んだ!」

「ふたりきりだし、ももねえって呼んでも」

「それはいいから!」


 桃香がバイクに跨り、俺もその後ろに乗る。水流が無くなったゾンビたちがこっちに殺到するけど、溜まった水に足を取られて動きは遅い。


「飛ばすよー!」


 そして桃香がアクセルを入れる。水を派手にかき分けながらオフロード仕様のバイクが走る。

 ゾンビも走るとはいえ、エンジンのパワーには勝てない。どんどん距離が開いていく。


 やがて諦めたらしいゾンビは、踵を返してどこかへ向かっていった。

 奴らに帰る場所があるとも思えないけれど、目的があるような動きだった。



「うまくいったねー」

「ああ。ゾンビを倒してない以上は根本的な解決じゃないけど」

「誰か気にしない人がいずれ倒すから。それを待てばいいわよ。それに仕事はレスキューだから。ゾンビを倒したかは気にしなくていい」

「そういうものか」

「それより、今度は灯里ちゃんが社長と鉢合わせしないかが心配ねー。もしもし灯里ちゃん? そっち大丈夫?」

『あの! 大丈夫じゃないです! 大変です!』


 電話したところ、切羽詰まった返事が来た。


「どうしたの!? まさか社長?」

『いえ! 社長も来たんですけど! それより詰め所が大量のスケルトン兵に襲われてます! しかもさっきの鎧を着たやつ! あとちょっとゾンビも! 助けてー!』


 おいおい。どうなってる。

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