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40.ルイスと冴子

 俺は周囲を警戒しながら、自分のスマホで社長の配信を見る。

 今の同接は十人に届かないくらい。言い訳しかしないおっさんの配信をそんなに熱心に見る奴がこれだけいるのか。どんな奴なんだろうな。


 直前まで沈黙を保っていたコメント欄だけど、灯里が配信を始めた直後に動きがあった。


『あかりんが配信始めたよ』

『え? マジ?』

『そっち見に行こ』

『あかりん逃げて!』

『こんなオッサンの相手しちゃ駄目!』


 数人しかいない視聴者だけど、灯里の話題にはみんな食いついていった。


『今、第十層の階段の所にいる』


 誰かが、冷静にそんなコメントをした。社長は驚いた顔をしながら駆けていく。


「さて、こっちも移動するか。社長はこっちに来るらしいぞ。こっちも逃げよう」


 十層に怖じ気づいて帰るという期待は裏切られた。ダンジョンの怖さをわかってないからかな。


 ここに来るまでにモンスターに襲われてレスキューを頼むなら、それに越したことはない。けど、運良く襲われずに来る可能性もある。奴がモンスターに遭遇する確率を上げるには、こちらも離れ続ければいい。


 灯里はスマホのカメラを見ながら頷いた。


「わたし、この層行くの初めてです! どんなモンスターがいるんだろうね! じゃあ、しゅっぱーつ!」


 拝金主義のクソ親父に狙われている不快感を一切出すことなく、灯里は既に数万人集まっている視聴者に語りかけた。


 俺と葵と陽希で灯里と桃香が押すバイクを囲み、移動していく。


 社長の配信を見ると、俺たちの進行方向を伝えるコメントが。こっちの配信も見ているのか? けど、俺たちに味方するなら嘘の情報でも教えて撹乱してほしいものだ。

 社長がこっちの配信を確認すればすぐにわかることとはいえ、それをする間の時間稼ぎとモンスターが襲う隙が作れる。



 何者なんだろう、このコメントは。



――――



「はー。灯里ちゃんってば十層に行くなんて。勇気あるねー。社長のはダンジョンをわかってないだけだろうけど」

「本当、馬鹿な人ね。そんなにの使われるこっちの身にもなってほしいわ」

「成長中の会社の社長秘書の仕事って聞いてホイホイ応募したら、気に入られちゃったんだっけ? 災難だよね、冴子ちゃん」

「からかわないで、ルイス。ほら行きましょう」


 スターライトキャスターの社長秘書である冴子と所属タレントのルイスは、ふたりでダンジョンの第八層にいた。正確には、今まさに配信している社長に見つからない程度の距離をとりながら監視できる位置にいた。


 配信で位置は確認できるし、あの社長は周囲の警戒なんてテクニックは持っていない。見失うことも見つかることもない。けど、何かあればすぐに駆けつけられる位置だ。

 決して、モンスターに襲われれば何もできずに殺されるだろう社長を案じてのことではない。冴子は自分のために、密かに社長を追っている。


 それぞれのスマホで灯里と社長の配信を表示して、灯里の位置をコメントで社長に伝えたのも冴子だ。



「しかしわからないな。なんであんな社長のこと助けるんだ? 嫌いなんでしょ?」


 ルイスが首をかしげると、首元のシルバーのチェーンがかすかに揺れた。


「ええ。ただ助けるわけじゃないの。わざとモンスターに襲わせて、助ける」

「そのまま殺した方が良くない?」

「それで失業したくないもの。わたしの力を見せつけて、わたしをキャスターにするのがいいって思ってもらうため」

「はー。ますますわからない。冴子ちゃんはキャスターになりたいんだ」

「ええ。まあね。黙って従って。前はあなたの願い通り、あの女を殺したでしょ? 今度はあなたが協力する番」

「はいはい。みっぴー殺しは感謝してますよ」



 冴子がキャスターになりたいのは事実。だから社長にそうお願いもしたけど、二度も却下された。ならば実力を見せて、さらに配信で大勢の人にも証人となって、既成事実を作るしかない。


 社長秘書は社長を守るため、ダンジョンの下層まで潜るような忠義ある人間、良き人格者だと世に知らしめる。きっと人気が出ることだろう。


 そして、手伝いとして連れて行ったルイスとのコンビネーションも良好であることも見せたい。そうすれば、ルイスの新しい相棒役としてDキャスターデビューできるのは間違いない。


 社長を助けるのに知り合いのベテランキャスターに頼むのは自然なことだし、社長が却下した理由とも矛盾せずに組むことができた。

 そしてルイスと組めば、いずれは視聴者たちがふたりを恋人にしたがるだろう。カップル系Dキャスターは人気だから。


 それが冴子の目的だった。


 彼女は、ルイスという男に惚れていた。向こうにそんな気がないのは知っているけれど、だったら力ずくで手に入れるまでだ。


 襲われた社長が怪我のひとつでもして、さらに助けてくれた秘書の強さを知れば、美人秘書だとしか思っていない冴子に一目置くようになって力関係にも変化が出るはず。

 事務所の方針に冴子が口を出すことも可能になってくる。もちろんルイスのこと含めて。


 ルイスを逃がすつもりはなかった。


 それにルイスの方も、冴子に借りがあるから今もついてきている。うまくやれば、今後もコントロールできるだろうと冴子は自信を持っていた。


 さっき彼が言っていたことは事実。みっぴーの死は、ルイスと冴子で仕組んだ人為的なもの。わざとモンスターに襲わせた、殺人だった。

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