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4.インフルエンサーの死

 灯里を落ち着かせ、みっぴーなるインフルエンサーのスマホが落ちている地点へと向かいながら、お互いの状況を説明し合う。


 みっぴーのスマホは今も配信状態で、位置は管理センターでも把握できているそう。メタルアントに襲われても、スマホ自体は幸運にも破壊を免れた。


 けど。


『カメラが地面を向いて落ちた状態で画面が動かず、視聴者からも状況がわからないそうです』


 オペレーターからの通信。

 だから、コラボ相手である灯里の配信に大挙として人が押し寄せたというわけか。こっちはまだ画面に動きがあったから。


 俺もスマホでみっぴーの配信にアクセス。本当に真っ暗で音もない。こちらにも数万人の視聴者がいた。


『みっぴー元気でいて』

『なんでこんなことに』

『ルイスさんは一体どこに……』


「心配してもらうべき人じゃないのに」


 灯里が、配信に乗らないほど小さな声で囁いた。



 やがて落ちたスマホの位置が近づけば、灯里たちに止まるよう指示を出し、俺ひとりでそこに向かった。


 配信画面が動かないなら、その持ち主が無事である可能性は低い。生きていれば、たとえ瀕死でも対処法はある。けど。


「オペレーター。遺体回収班を寄越してくれ」

『了解。後の処置はこちらに任せてください。あなたたちは救助者を連れて戻って』

「了解」


 死んでしまったら、どうにもならない。死者を蘇らせる術はどこにもない。


 鋭い顎で胴を貫かれあちこち切り刻まれている女の遺体を一瞥してから、俺は灯里たちの方へ戻る。わざわざ死体を見せる必要もない。

 インフルエンサーっていうから元は美人だったのかな。血まみれで苦悶の表情をしていて、俺にはわからなかった。


「亡くなっていた」

「そっか。……ごめんなさい。みっぴーさんは亡くなったそうです」


 自分の配信を見ている、みっぴーのファンに向けた言葉。灯里のスマホを覗くと、悲しみに満ちたコメントが怒涛の勢いで流れる。

 それに混じって。


『あかりんたちだけでも無事でよかった』

『きっとみっぴーが守ったんだね』

『それにしても、さっきの少年の腕はすごかった』

『もっと早く来てくれれば』

『無茶言うな』

『レスキューってすげえなあ』


 そんなコメントもいくつかあった。


「折付くんすごいね。みんなの人気者だよ! わたしも知り合いとして鼻が高い!」

「そんなこと言われても」


 クラスメイトって、自慢する間柄としては微妙だ。


「お姉ちゃん。折付さん困ってるでしょ?」

「はい……静かにします」

「桃香。修理状況は」

『アンテナ交換完了したよ。けど気になるんだよね』


 通信の向こうで、桃香が訝しげな声で言う。


『アンテナ本体に穴が開いてた。だから修理は無理で、交換』

「穴?」

『細い何かで一突きしたような穴。人為的なものね』

「犯人は」

『わかんない! 続くようならカメラ取り付けるしかないわねー』


 ただのアンテナ基地。ダンジョン内にいくらでもあるそれに、ひとつひとつ監視カメラをつけるのは予算が掛かる。それが必要な事態も今まで起こってない。

 悪戯をする不届き者が出たということか。電波はいざという時に救助を頼むための生命線でもあるから、愚かすぎる行為なんだけど。

 いらない仕事が増えたことへの憤りを感じていた、その時。


「みっぴー!」

「お?」


 進行方向から、男がひとり駆けてきた。身につけたシルバーアクセサリーが妙に目立っている。

 死んだ女の名前を呼びながら俺たちに目もくれず、すれ違って遺体の方に行った。

 彼女の名前を呼びながら、悲痛な叫び声をあげるのが聞こえた。


 ここに至るまでの経緯は灯里から聞いている。


「あれがルイスさん?」

「うん。辛いよね。自分が離れてた間に彼女さんが死ぬなんて」

「それはそうだな」


 なおも、ルイスはみっぴーと叫び続けている。


 あだ名だよな、みっぴーって。恋人が死んだ時でも、あだ名で呼び続けるものなのか?

 俺にはわからない感覚だ。



 その後、桃香と合流して、とりあえず拠点にしてるガレージへ戻ることに。さすがにバイクに四人は乗れないから、押して行く。

 周囲にモンスターの姿はない。このままのんびり戻ろうと思ってたら。


『第八層で救難要請あり。ゴブリンの群れ。要救助者は十代女性。近くの救助員は急行してください』


 さっきとは別のオペレーターからの通信。この階層で、また誰かが襲われたらしい。スマホで位置を確認。同じ階層とはいえ遠い。ここには他の救助要員もいる。彼らの方が到達は早いだろう。

 そもそも俺も桃香も仕事はメカニックなわけで。これに付き合う義務もなくて。


「ゴブリンかー。時々出るわね」

「モンスターが出たんですか?」

「ええ。救助要請」

「どれどれ?」


 灯里は俺たちの会話から、さっきの自分と同じく危機に陥ってる人間がいることを察知。さらに俺のスマホを覗き込んで位置を把握して。


「あ。そこならワープポイント近いし、すぐ行けますよ」


 気軽そうに言った。


「近い?」

「うん。すぐ行ける。こっちだよ折付くん!」

「おいっ!?」


 俺の腕を引っ張る灯里に、そのままついていく。葵も無言でくっついてきた。


「いってらっしゃーい。わたしは先に戻ってるねー」


 桃香が手を振るのを背に、俺は灯里についていく。走るのが遅いからちょっと本気を出せば追い抜けるのだけど、先導するのは彼女だ。


「ここ! ふたりとも手を繋いで!」


 ある地点で止まった灯里は、俺に手を伸ばした。葵は慣れている様子で、もう片方の手を握る。

 俺が彼女の手に触れた瞬間。


「ワープ!」


 灯里が叫び、俺たちは光に包まれた。

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