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39.社長対策で第十階層へ

 俺も、社長と灯里を会わせないという方針には賛成だ。けれどそれには。


「灯里、どうする? 今日の配信は休むか?」

「んー。でもなー。クラスのみんなに、今日の配信も楽しみにしてって言っちゃったし」


 バズってしまったインフルエンサーとして学校で誠実な対応をした灯里は、その誠実さ故に悩んでいるようだった。


「ほら。お姉ちゃんのアカウントみて。社長が狙ってるから配信お休みした方がいいですよってメッセージがいくつか来てる」


 いくつも来てるわけじゃないのは、単に社長の配信を知ってる人が少ないからだろう。中年のおっさんキャスターというのは、それだけで見ようとする人間が少ないから不利だ。


「理由を言ってお休みしますってメッセージだけ上げたら、みんな納得してくれるよ。たぶん社長の配信が炎上するだろうけど」


 なんだかんだ、葵は姉を気遣っている。中年男が姉を狙っているという状況に危機感を持っているのは明らかで。


「うん。それはいいと思うんだけど。あの社長が一日で諦めるとは思えなくて」


 会社の状況を考えれば、灯里が戻ってこないことにはどうしようもないのだろう。だから今日休めばいいってわけでもない。


「それに、お母さんの病気がいつ悪化するかわからないし。休みたくないんだよね。稼げる内に稼いでおきたい。あとこんな男のせいで配信できなくなるなんて、悔しいじゃん?」


 柔らかい言い方だけど、そこには灯里なりの覚悟があった。


「どうしたらいいかなんて、わたしにもわかんないんだけどね。あははー」


 肝心なところで格好がつかない灯里。けど、そういうことなら協力してやろう。


「この社長がダンジョン慣れしてるかは知らないけど、どうせそこまで深く潜ったわけじゃないだろ?」

「え? うん。それはそう。ベテランキャスターとか、そんな話は聞いたことない」

「スキルについて聞いてみよっか。わたしのアカウントから質問して……っと」


 灯里のアカウントなら見てることがバレるだろうけど、葵なら問題ないらしい。狙ってる相手の妹なのに、そこの警戒心は無いのか。


 説教とか批判とか諦めろってコメントがたまに流れてくるだけだった中で、自分が不快にならない質問が来たことに社長は気を良くして饒舌になった。


『剣術系スキルだ。剣の扱いがうまくなるらしい。だから武器も剣を買ったぞ。今のところモンスターとは遭遇していないが、戦闘については問題ないだろう』


 そう言って腰に差した剣を見せる社長。


 安物だな。

 人のことは言えないけど。俺が使ってる剣も同じくらいの安物だ。


 モンスターと遭遇せずにここまで来れたことは幸運だ。ダンジョンに入る者が増えている影響だろう。週末の俺たちの配信を見て、今日も夕方から多くの探索者が来ているらしい。

 バズ目的だけではなく、宝箱から手に入れたアイテムで一攫千金を狙う者もいる。健全に探索するなら問題ない。


 そして、社長は今の言動からして初めてのダンジョン入りだ。しかも単独で。戦闘の方法なんかも知らない様子。

 はっきり言って自殺行為だ。



「社長が来られないような所で配信しよう」

「つまり?」

「もっと下の層に行く。桃香、バイクの準備を」

「今日の探索はわたしも行くのね」

「ああ。俺たちのお目付け役だし、アンテナ整備とレスキューの仕事サボって俺たちに付き添っても問題ないだろ」


 俺の親父が許してくれるさ。


「克也も言うよねー。ねえ灯里ちゃん。ワープでバイクも一緒に運べる?」

「桃香さんの装備という扱いならいけます。つまり、跨った状態でわたしと手を繋いでいれば移動するはずです。でも、なんでバイク?」

「下の階層は暗いからねー」



 そして一時間ほど後。俺たちは第十層の階段下にいた。


「うへー。初めて来たけど、ほんと暗いねー。しかも歩きにくい」

「こう見ると、八層はまだ楽だよな」

「うん。下に行くほど厳しいって本当なんだね」


 八層と比べても地面はゴツゴツしていて、通路の幅も一定していない。そして、正体不明の光源のためになぜか洞窟内なのに明るい八層と違って、ここはとても暗い。

 僅かに照らされてるが、光が弱すぎる。手を前に伸ばすと、自分の手の甲が見えない程度に暗い。


 ひとつ上の九層も、明かりを用意しないと厳しいって言われてるわけで、この十層では明かり必須だ。


 しかしランタンを持ってダンジョンを探索するのは、片手が塞がってそれも危険。だからここでは複数人でパーティーを組んで探索が基本になる。誰かがランタン係になるというわけだ。


 で、俺たちのランタン係はバイクにしてもらうことに。


 ベッドライトとテールランプを灯した上に、さらに改造されたこのバイクにはLEDランプがいくつか取り付けられている。それを灯すことで、周囲と頭上に明るい光を投げかけることができる。


 俺たちの周囲十数メートルだけ、探索に問題ない光量で照らされることになる。


「じ、じゃ、準備はいいかにゃっ!? み、みんな落ち着こうね! は、配信、はじゅ!? 始めます!」

「灯里ちゃんが一番落ち着こっかー」

「だ、大丈夫でしゅ!」


 配信を始めれば、社長にこちらの位置を知らせることになる。

 苦手なんだろうな。

 けど配信を待っているファンも大勢いる。一旦深呼吸した灯里は、配信開始ボタンを押した。


「やっほー! あかりんだよー! 今日はちょっと、いつもと違う階層で配信しちゃおうと思います!」

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