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34.ミラクル・ルミナス変身ブレスレット

 あのアニメが放送されるのは、キャラクター商品を売るためなのが大きい。ヒロインが変身するためのアイテムは、そんな商品の代表だ。


 もっとも、ダンジョンの外で普通に流通しているものであって、そこまで価値がある商品じゃない。


「は、はは……なんだ。こんなもののために、俺は……」


 結果を見た男は、力なく笑ってうなだれた。


 一方の、葵と陽希は落胆などしていないようで。


「なるほどね。わたしたちの共通の話題ってことで、宝箱が選んだのかな」

「かもね。はい」

「わたしにくれるの?」

「葵が持ってた方が、似合う」

「たしかにね。ありがと」


 葵が玩具の箱を大切そうに抱えながら裂け目から出てきた。


「開けてみよっか。玩具の開封動画です。えっと……どうするんだっけ?」

「開けて、中身をカメラに見せる」

「なるほど。じゃあ開けてみるね。本体と説明書と、玩具メーカーのアンケートハガキ。本体ですけど、ボタンがいくつかついてます。これはルミナス用のアイテムだから、薄いピンク色ですね。ブレイズのだったら赤で、テンペストのだったら緑色っぽいのかな」


 唐突に始まった、葵の玩具レビュー。どこまで需要があるのかは知らないけど、コメントは流れていた。


『娘が欲しがってるやつだ』

『わたし、昔みてたなプリミラ』

『なんか懐かしい感じ』

『今の玩具ってこうなってるんだー』


 とまあ穏やかな進行だった。こういうのも、なんかいいな。


「単三電池二本使用。もちろん別売り。ここにはないから、実際に電源入れて遊ぶまではできないかな。でも装着してみますね。小さい女の子向けだけど、アジャスターがついてるからわたしの手首にもはまるかな。あ、ぴったりだ。もっと大きい大人だと厳しいかも」


 カメラに向けて言いながら、葵が部品の大半がプラスチックでできているブレスレットを取り付けた。


 直後、電池の入っていないブレスレットが金色の光を放った。


「え? え!? なにこれ!? わたしなにもしてないけど!? うわ外れない!」

「葵落ち着いて! なんかコメントでこの現象見たことあるって人がいる!」


『これ、装備アイテムなんだ!』

『装備アイテム!?』

『本当に稀にしか見つからないっていう、あれ?』

『腕輪とか指輪とか兜とかの形で出てくるってやつだな』

『腕力とか素早さとか頑丈さを上げるやつだな』

『アイテムだからダンジョンの外でも効果が出て、地味に人気がある』

『それでいてレアアイテムだから、めちゃくちゃ高値で取引される』

『でも、なんで玩具が装備アイテム』


「そっか。これもブレスレットか……」


 確認されている限り、装備アイテムは装飾品の形をしている。

 そして変身アイテムの玩具であるこれも、ブレスレットではある。ちゃんとアニメのなかでもそう説明されていた。


「葵、感覚でなにか変わったことはある? 強くなった感じがするとか」

「んー。よくわかんないんだけど、スキルが強くなってる気がする」

「つまり?」

「光る弓矢が……わわっ!?」


 いつものように出してみた光る弓。そのサイズが明らかに大きくなっていた。


 子供向けではない、葵自身の背丈と同じくらいの長さの弦を持つそれを、しかし葵は重そうな様子は見せずに眺める。


「うん。やっぱりこれ、スキルをすごく強くする装備なんだと思う」


 何もない空間に矢をつがえて、放つ。大きすぎる弓だけど、葵は問題なく扱っていた。

 ただし、放たれた矢はこれまでよりもずっと速く飛ぶ。空を切る音と共に、矢は洞窟の壁面に刺さった。


『いやいや!』

『マジか!?』

『洞窟壁って普通は壊せないものでしょ!?』

『矢を岩に刺すってだけで普通じゃない』

『どんだけ強いんだ……』

『下手したらメタルアントの外殻も貫けるんじゃね?』

『ありえる……』

『頼れるアーチャーの誕生です!』


「え、えへへ。そんなにすごいかな……」


 正直言うと、すごい。俺も驚いている。


 コメントにあった通り、この洞窟の壁を傷つけるのは困難だ。外見こそ普通の岩だけど、見た目以上の硬度を持つ。

 加工も不可能ではない。アンテナを保護するためのフェンスの設置や、ガレージや階段横詰所の基礎工事なんかはダンジョンの岩に穴を掘ってやっている。

 ただし、特注品の工具とベテラン作業員を大量に動員しなければできない工事だ。



 そしてダンジョン内の未探索エリアや、初めて足を踏み入れる下層なんかで新しくアンテナや拠点を設置することの困難さは、ダンジョンの硬さによる面が大きい。


 未知のもの含めてどんなモンスターが襲ってくるかわからない状況で、護衛たちに自分の命を預けて可能な限りの短時間で工事を行う。大変な作業だ。


 それほど固く、D-CAST社としても頭を悩ませているダンジョンの壁に、小学生の女の子があっさり穴を穿った。

 この力はもしかすると、ダンジョン運営の大きな助けになるかもしれない。



 そして、この力の価値を感じた人間がもうひとり。


「よこせ……そのブレスレットを、よこせ……」


 陽希の父親が、ゆっくりと立ち上がって葵に近づいてきた。

 スキルの向上が効果の装備だから、ダンジョン外で役に立つものではない。けど、その力は絶大だから高値で売れることだろう。

 それを見逃す男ではない。


「よこせ! その装備は俺のものだ! 宝箱は俺が最初に見つけたんだ!」

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