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32.白い宝箱の正体

 白い宝箱。開けた者の望んだ物が入っているという、レアな宝箱。

 巨万の富を望む者が開ければ、大量の現金でも入っているのだろうか。あるいは、換金すればかなり高価なアイテムとか。


「陽希、詳しく教えてくれ」


 頷き。


 配信の最中。陽希があまり口を開かず、話したとしても断片的なものが多い。それでも慣れてくれば、背景はわかった。表情の変化は相変わらずわからない。


 つまりこういうことだ。昨夜、陽希を使ってDキャスターとして再起することにした杉下夫妻は、灯里の配信含めていくつかのDキャスターの動画をチェックしてコツを掴もうとした。

 結局は陽希のネームバリューを使う以上のやり方は思いつかなかったらしいけど、それはそれ。なんとか成功率を高めようとする努力はした。


 そして陽希の母がある配信で、白い宝箱が映り込んだのを見たという。配信主は気づかず、視聴者もそれほどいなかったらしいから誰も気づかなかった。

 ただ母だけがダンジョンの壁に出来た裂け目の先に、それらしいものがあると見た。



 レア宝箱を陽希が開ける。この展開はバズる。そういうわけで、一家は宝箱を見た事実は誰にも告げず、その場所に向かったところミノタウロスに襲われた。


「桃香さん。たしかにあの男、言ってましたよね。あそこに宝箱があるはずだって」

「言ってたわね。錯乱してなにかの妄想に取り憑かれただけって思ってたけど、本気だったんだ」

「陽希。昨日のその配信、誰のものかわかるか?」


 首を横に振る。


 たぶん、母親しか詳しくは知らなかったのだろう。

 それでも、この一家が襲われた付近が現場なのは察しがつく。たぶん父親も同じ考えで、そこに向かっている。


 大まかでも行き先がわかるなら行ってやるべきだ。


「行くぞ、みんな」

「うえー。しかたない。えっと、視聴者の皆さん! 陽希くんのお母さんが昨日見たという配信、アーカイブが残ってないか探してみてください! 見つけてくれた人には、あかりんが愛を込めて"大好き"って言ってあげます」


『桃香さんに言ってほしい』


「うるさい! とっとと探せ! ふしゃー!」

「ほら行くぞ!」


 怒った猫みたいになってる灯里を引っ張って、五人でガレージを出た。



 脱走したという父親の狙いはわかる。多くの人間に醜態を晒し、頼みの綱である息子にも見放されたけれど、まだ成功を諦めていない。

 望むものが手に入る宝箱を開ければ、人生逆転できるかもと考えているのだろう。


 開けさえすれば、そうかもしれない。


 けど、問題がひとつある。配信に映り込んだということは、画面の隅にごく短時間とかその程度だろう。誰も気づかなかったというし。

 それが本当に白宝箱とは限らない。


 あの宝箱はレアだ。発生がランダムだから連日発生もありえなくはないけれど、開けたという話は体感で半年に一度くらいの間隔で聞く。他のダンジョンでも同じようなものだろう。

 そして白い宝箱は昨日開けられた。その配信は見たし、記憶する限り位置はさっきの場所とはかなり違う。


 ちらっと見つけた別の種類の宝箱を、別のものだと誤認した可能性が高かった。



「えっと。こっちだね! ワープ!」


 灯里が五人まとめてワープさせる。あまり多いと無理というけれど、この人数なら問題ない。


 そして、ミノタウロスたちが陽希に倒された場所の近くに来た。


 周囲に人の気配はない。すると桃香が、地面に耳をつけて周囲の物音を聞いて。


「近づいてくる。しかもかなり早く」

「さすが俊足持ちだな」

「そうね。こっちから」

「わかった。陽希、受け止める用意をしてくれ。殺さなかったら暴力を振るってもいい」

「うん」


 俊足スキル持ちを止めるとはつまり、相当の速さの人間を受け止めるということ。こちらも相応のパワーが必要になってくる。


「あの桃香さん! さっきわたし! あの人に突き飛ばされたんですけど!」

「うん。そうねー」

「痛かったんですけど!?」

「ごめんごめん。わたしたちだけだと、突っ込んでくる男の人を止めるにはふたりがかりじゃなきゃ無理だったから」

「桃香さんひとりで出来そうな雰囲気でしたけど?」

「灯里ちゃんが動きを一瞬止めてくれたからよ。だから、灯里ちゃんは頼りになるの」

「そ、そうですか! そっかー。わたし頼れるかー」


 なんか単純な灯里が、騙されて痛い目に遭ったのにそれを忘れて喜んでいるように見える。というかそのものだ。


「お姉ちゃん見て! 白い宝箱の動画見つかったって!」

「お? どれどれ?」


 今度は自分は止める役は絶対やらないと、強い意志を感じさせる動きで灯里は葵のスマホを覗き込んだ。


「ほらこれ。アーカイブのここ!」

「へえー。たしかに何かあるねー。白宝箱に……見えなくもない? ほんと一瞬だしボケボケでわかんないけど」

「ううん。これは違うわね。灰宝箱」

「えっと? 灰色の宝箱って何が入ってるんでしたっけ?」

「一見すると価値がないもの。本当に価値がないか、実は役に立つ効果があるかもしれないものかは、確かめるまでわからない。白と同じように、開けた人の意思を反映するって言われてるけど、役に立つ保証はない」

「あー。そっかー。……本当に白だったとかなら、わたしが横取りを考えてたんだけど。灰色だったら期待できないかな」

「お姉ちゃんそんなこと考えてたの? あの男にあげるのもどうかと思うけど、横取りはよくないよ」

「うん。だってわたしか葵が白宝箱開けたら、中身はひとつじゃん。ハイパーポーション。それか一億円が入ってるかも」

「あ……お姉ちゃん! この場所どこ!?」

「あ、葵落ち着いて! ハイポーションは見つからないんだってば!」

「でも。なんか似た効果があるものがあるかも!」

「うーん。そうかもしれないけど。いいよ。あっちの方」


 灯里が指さしたのは、陽希の父親が来ると思われるはずの方向だった。

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