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26.玩具レビュー動画のアイドル

『はいどうもー! 今日ハルちゃんが遊ぶのはこれです。ハルちゃん、これが何かわかるかなー?』


 画面の中で、父親と思しき男が幼い頃のハルに大きな箱を見せていた。ひと目で玩具のパッケージだとわかる、派手な色合いをしていた。


 投稿日時は六年前。ハルがまだ小学校に上がる前の動画だ。今よりも更にかわいらしくて、女の子と言っても通りそうな顔つきをしていた。




 ハルが気絶した後、彼を抱えてガレージまで戻ってベッドに寝かせた。

 スタンガンと同じように、雷のエンチャントに人を気絶させる効果はない。ただ筋肉の動きを止めたり、痛みで怯ませ戦意を喪失させるだけ。

 なのに気絶したのは、よほど疲労が溜まっていて体に限界が来たからか、緊張の糸が途切れたか。多分両方だ。

 小学生がやるには、あまりにも過ぎた運動だったみたいだし。状況も最悪で心労も重かったはずだ。



 現場の状況は確認しておいた。ミノタウロスからのドロップが三つ存在した。つまりミノタウロスは三体いて、それをすべてハルが倒したらしい。

 それからもうひとつ。女の死体があった。たぶん母親だ。そっちは遺体回収班に任せることに。



 ガレージに、まだ灯里と桃香は帰っておらず、通信をしたら保護した男が泣きわめいて動いてくれないとのことだった。


 灯里の配信を見れば、その通りの光景が映されている。大の大人が駄々をこねるように地面に仰向けに寝そべり、俺は悪くないと繰り返すだけ。


『この男、なんだ?』

『すごく……みっともない』

『なんか見たことある顔なんだよなあ』

『誰?』

『覚えてない。昔バズった奴とか?』

『あ! 思い出した! 玩具大好きハルちゃんの親父だ!』

『あー! そんなのあったな』

『誰?』

『玩具レビュワーの。見てる層が限定的だし、知らないやつもいるよな』

『かつての人気キャスターの姿か? これが……』


 コメントでそんなのが流れてた。多くの人が、男の情けない姿を目の当たりにしてるようだ。



 男の寝そべってる位置がワープポイントから微妙にずれているらしく、灯里がなんとかそこまで引っ張っていこうと無駄な努力をしていた。宥める方が早いのかもしれないけど、時間がかかりそうだ。


 たぶんこの男、ミノタウロスに遭遇した時点で妻子を見捨てて、ひとりだけ逃げたんだろう。

 比較的好意的な解釈として、妻が殺されるところを見て息子を見捨てて逃げた可能性もある。




 ふたりの帰りを待ちつつ、葵から話を聞く。ハルという男の子をなぜ彼女が知っているのか。その答えとして提示されたのが、M-CASTに投稿された六年前の動画だった。

 さっき配信画面で喚いていた男と、死体で見つかった女と、幼い日のハルが出ている動画。


「子供向け玩具のレビュー動画です。子供が遊んでいる様子を見たいって層がたくさんいるらしくて。ハルちゃん……あの男の子が出てた動画もそういうコンセプトで、当時は大人気でした」

「葵も見てたのか?」

「はい。よくこのチャンネル見てました。プリティミラクルの玩具で遊ぶ動画とか、好きだったなあ」


 なるほど。


 見たところ、ハルちゃんが遊んでいるのは女の子向けの玩具が多い印象だ。今見てる動画でも、プリティミラクル戦士が変身するアイテムの玩具を持っている。


 プリミラの玩具以外にも、可愛らしい着せ替え人形とか、それが暮らすドールハウスとか。女の子が好きそうなキャラものの玩具とか。


「懐かしいです。あの時は視聴回数なんて意識せずに見てましたけど、今見たら化け物ですよね」


 いくつも並んだ再生数はどれも、数十万にせまる勢い。

 けれど、時が経つにつれて再生数は落ちていく傾向にあった。しかも投稿頻度も落ちてきている。そして二年ほど前からぱったりと玩具レビューの動画は投稿されなくなった。


 代わりに、両親が深夜のバラエティ番組みたいな企画をする動画が投稿され始めている。そっちは、あまり再生数は良くない。百に届かない程度だ。


「ハルちゃんが人気だっただけで、両親は添え物って感じだったんですね。ハルちゃんかわいかったから」

「なるほどな。けど、年齢が上がるにつれて玩具で遊ぶなんてしなくなった」


 両親は望んだかもしれないけど、本人が嫌がったのだろう。それに年齢が上がれば、男の子らしさも強くなっていく。女児向け玩具で遊ぶ小学生男子に違和感を覚えて見なくなる者も出てきた。

 だから再生数も投稿頻度も落ちた。


 しかし両親は、配信によって名前を売って稼ぐことを諦めていなかった。そこに現れたのが。


「Dキャスターと、バズった俺か……」

「そういうことですね。自分も後に続こうと考えた。いきなり出てきた克也さんがバズれるなら、かつての人気キャスターを出せばもっとバズれると思って、ハルちゃんを連れてきて」

「浅はかな考えだな」


 俺がバズったこと自体、幸運と偶然が重なっただけのこと。狙ってやれるようなものじゃない。


 それがわからず挑戦した結果がこれか。妻が死んで夫は醜態を全国に晒している。そして息子は、たぶんスキルのおかげで死を免れた。

 身体強化系のスキルだと思う。それもかなりの出力を持っている、レア中のレアスキル。ただひとり残された彼は、本能のままに戦って生き延びた。


「……あの子ですけど、ハルちゃんって呼ばれるのが嫌なんだと思います」

「だろうな」


 戦いで高揚した状態で、嫌ってる呼び方されたから、思わず襲っただけ。


 たぶん、起きたら落ち着くはず。

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