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23.忙しすぎる土曜日

「みぎゃー!? オークがたくさん! やばいやばい! 逃げないと!」

「ほら灯里ちゃん下がって! 克也勝てそう!?」

「いける!」


 エンチャントを使うことなく、五体いたオークを次々に仕留めていく。この程度なら問題はない。むしろ葵が援護してくれるから今までより楽だ。


 救助対象にも大きな怪我は見当たらず、良かった。

 とりあえずこの人を灯里のスキルで階段横の詰め所まで送り届けて、後はそこの職員に任せるよう。


 なのに、引き渡した直後に耳元に声が聞こえた。


『救助要請あり。行ける職員は現場に急行してください。メタルアントが二体、キャスターを追いかけています』


「ま、またですか!?」

「灯里、行けるか?」

「行きます! 行くけど! ちょっと休ませて!」

「メタルアントは待ってくれないぞ」

「うわーん! 忙しすぎ! ブラックだよここ!」


 失礼な。今日が特別忙しいだけで、普段はもっと暇だ。



 朝起きてから、ずっとこの調子だ。ひっきりなしに救助要請が来て、俺たちは広い第八階層を走り回っていた。


「お腹すきました! お昼ごはん食べたいです! 晩ごはんかもしれないけど!」

『救助要請あり』

「オペレーターさん! もう許してください!」

『大変ね、灯里ちゃん』

「オペレーターさん!? わたしの気持ちわかってくれますか!?」

『ちゃんと休日労働手当が出るから安心して。場所を送ります。灯里ちゃんなら行けるはず』

「うわーん! お休みが欲しいです! オペレーターさんがいじめるー! ちなみに襲っているモンスターはなんでしょうか!?」

『スマホの電池が切れそうでアプリの地図が見れなくなるので、迷う前に助けてほしいと』

「頑張って自力で帰れと言っておいてください!」


 やめておけ。これも立派な救助要請だ。


「ほら灯里行くぞ」

「うぅっ! ぐすんぐすん。お母さん、この若さで過労死するわたしを許してください」

「お姉ちゃんいつまで泣いてるの。ほら行くよ」

「あの! わたしの味方はいないんでしょうか!?」


『あかりん頑張って!』

『頑張るあかりんかわいいよ!』

『思うにあかりんは、追い詰められる程に可愛くなる』


「あの! 応援コメントは嬉しいですけど! なんか違うくないでしょうか!?」


『キビキビ走って!』

『ほら早く』


「びえー! みんながいじめてくる! ワープ!」


 泣き言はやまなくても、灯里のワープスキルはその日何度も有効的に使われて、いくつもの命を救った。


 オーク肉やスケルトン兵の剣や、メタルアントから時々ドロップするミスリルインゴットのような有用なアイテムなんかも手に入った。肉は食えるし、レアドロップは売ればまとまった金になる。

 一日配信したら投げ銭の量もそれなりになった。まだ一億円には程遠いとしても。


「駄目。もう無理。動けない……」


 一日中走り回ってカメラを回していた灯里は机に突っ伏している。今日の儲けを確認する気力もなさそうだ。


「週末なんなの。こんな忙しいの? やだ……」

「お姉ちゃん。週末は二日あるんだよ? 明日の日曜日も頑張ろうね!」

「ああああああ!!」


 灯里が壊れた。


 そう。鬼のように忙しかった今日は土曜日。明日もある。


「明日は! 休みます! 無理です! 働きたくありません!」

「駄目だこりゃ。お姉ちゃん無しで、克也さんとわたしだけで働きましょうか」

「お? じゃあカメラマンはわたしがやる?」

「桃香さんやってくれますか? じゃあお願いします」

「待って! 配信するのはわたしの仕事です! 仲間はずれにしないでください!」


 あ。復活した。


「そうだよね。灯里ちゃんには自分の役目があるよね。じゃあ、今日は疲れてるみたいだし早めに寝て、明日の朝早くから頑張る?」

「あ。それなんですけど。あんまり早すぎても困るというか……」


 遠慮がちに止めたのは、灯里ではなく葵だった。


「日曜日の朝は、やらないといけないことがあるので……」




 翌朝。


『スキュラ仮面! あなたの悪行もここまで! 今日こそぶっ殺してやる!』


 テレビ画面の中で、セーラー服姿の女の子のキャラが腕のブレスレットに指を触れた。

 腕にはめるアクセサリーではあるけど、それなりの大きさがある。普段からつけてたら目立つよな。


『ライトオン! ミラクル・ルミナス!』


 彼女の体が変化していく。服はビンク色を基調にしたヒラヒラ。髪が伸びて金髪サイドテールになっていく。


 そして彼女は、決めポーズを取りながらミラクル・ルミナスと名乗りをあげた。



 プリティミラクル戦士シリーズ。数十年前から年に一度新シリーズに切り替えながら、日曜日の朝に放送され続けている変身ヒロインアニメだ。

 今も高い子供人気を集めているらしいそれに、葵の目は釘付けになっていた。


 ダンジョン内にインターネットの電波は入ってくるけど、テレビの電波は入ってこない。ただし今時は、テレビ番組を放送と同時にネットでも見られる仕組みが充実している。

 だから葵は、好きなアニメをダンジョンの中でリアルタイム視聴できているわけだ。



 さっきのミラクル・ルミナスを含めた、カラフルな衣装のミラクル戦士たちがダンスを踊るエンディングを見て、その後に挿入されるヒロインが変身するためのブレスレットの玩具のCMまで見てから、葵はようやく満足した。


「葵ってば昔から好きだよね、プリミラ」

「なに? 悪い?」

「悪くはないけど。小学校も高学年だと、さすがに対象年齢から外れるかなって。なんというか……お子ちゃま」

「克也さん桃香さん、今日もお仕事頑張りましょう! お姉ちゃんのこと、ぶっ倒れるまでこき使っていいですから!」

「ぎゃー! やめてください! 葵ごめん! 怒らないで!」

「まったく……」

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