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19.いつもより少し静かな教室

 アンテナがバッテリー駆動の時点でわかることだけど、ダンジョン内に電気はない。このガレージにも電気は通ってない。


 水はエンチャントで作れる。雷のエンチャントもあるにはあるけど、剣を帯電させたものにプラグを近づけても電化製品が使えるようになるわけではない。


「あれで発電してる」

「……エアロバイク?」

「そう。トレーニング用だけど、漕いで発電もできる」

「へー。わたしもやっていいですか?」


 積極的な葵がさっそくエアロバイクにまたがった。小学生だから負荷は軽めに設定しておく。発電量も少なくなるけど、小学生にはちょうどいい。


「とりゃー!」

「わー。葵頑張ってー」

「お姉ちゃんも後でやるんだよ?」

「え?」

「だってそうでしょ? この家でお世話になるんだから、ちゃんと役に立たないと。人が増えると使う電気も増えますよね?」

「まあ、そうねー。ここオール電化だから。お湯を作るにも電気が必要だし」

「ほら! お風呂のお湯代くらいは稼ぎなさいお姉ちゃん!」

「やだ! 嫌です! 無理無理! むーりー!」

「やるの! ただでさえ、わたしたちの中で一番体力ないんだから!」

「そんなこと言われてもー! 克也助けて!」

「頑張れ」

「そんなっ! も、桃香さん!」

「あー。実はわたしも電力不足には困ってたっていうか……克也くん頑張ってるけど、いままでどうしても節電してたのよね。だから灯里ちゃん頑張って!」

「みぎゃー!? 味方がいない!?」


 こうして、灯里も自転車発電に参加することとなった。


「そうだ。配信が盛り上がらない日の企画思いついた。あかりんトレーニングっていうの」

「も、もうご勘弁をー!」


 賑やかな奴だ。



 翌朝。いつものように起きて、いつもより大勢で朝食を食べる。これが、これからの当たり前になるのかな。


 登校もいつもと違う形になった。制服姿の灯里に連れられて、ワープを繰り返してダンジョンの外に出る。投稿時間が普段よりかなり短くなった。

 小学校に向かう葵と駅で別れて、高校へ向かう。


 昨日の配信もかなりの人が見ていたらしい。学校でも、また囲まれてしまう。


「折付! お前すごいな!」

「衛藤さんも可愛かったよ!」

「今度なんか奢ってくれ!」

「俺の配信に出てくれ! 一階層でやってるんだ!」


 そんな声に軽く返事をしながら教室に向かう。

 そこでもみんなに囲まれたけど、クラスの外と比べると少しおとなしかった。


 クラスメイトの死は既に広まっていることだろう。湯田は嫌われ者だったとはいえ、喪失感はあるに決まってる。


 彼の死の真相も、既にネットでは広まってる。俺たちが配信中に話したから。


 それから、雨宮美海も見当たらなかった。


「あの。衛藤さん。折付くん」

「あ。エミちゃん!」


 少し遠慮がちに挨拶してきた女子。

 美海の取り巻きのひとりだ。


「昨日はありがとう。必死に逃げてたらダンジョンの中で迷子になっちゃって。会社の人が来て助かったよ。ふたりのおかげだって聞いて」

「クラスメイトが危ない目に遭ってるのは、放っておけないから」

「うん。あのね。わたし、美海に無理に連れてこられて。配信見るのは好きだけど、自分が入るのは怖くて。でも、美海は入らないと友達じゃないって言うから……いじめられるのが怖くて」


 ああ。湯田だけが馬鹿で、世間的には美海という新人配信者は被害者的な扱いを受けてるけど、それが真実ではないのだな。


「エリちゃん。美海ちゃんは今、どこに?」

「病院だよ。しばらく入院が必要だって」


 治癒スキルで傷は塞がったはず。なのに病院に行く必要があるなら、それは。


「鼻をね、食いちぎられたらしいの」

「うわー。痛そう」

「それはしばらく退院できないな」


 回復スキルは傷を癒せる。けど、さすがに欠損は直せないまま傷を塞いでしまう。

 欠損した部位が見つかれば、くっつける手段はある。けど、あの大量の狼の腹のどこかに入ってしまっているなら、発見は困難だ。


 俺が燃える剣でぶった切った可能性すらある。



「美海、自分の可愛さに自身をもってたから。M-CASTで動画とか投稿してたの。踊ってみた、みたいな簡単な奴だったけど」

「へえー。そのイメージはたしかにあるね」

「昨日の夜、事務所からスカウトのメッセージが来たんだって。スターライトキャスターって所。結構大きい所らしいよ」

「スタスタ?」


 自分が昨日クビになった事務所の名前が出てきて、灯里は首を傾げた。そんなことは、話してる彼女はもちろん知らないことで。


「うん。これでインフルエンサーの仲間入りだってはしゃいじゃって。それで強引にわたしたちを誘ったの。できたら、折付くんにも一緒に来てほしいって言ってた」


 その願いは叶わなかった。で、あの結末。


「ごめんね。変なこと話しちゃって。とにかく、助けてくれてありがとう。Dキャスターになりたいとかは、わたしはいいかなって」


 賢明な考えを表明してから、澤村英莉はぺこりと頭を下げて自分の席に戻っていった。



 少し後。担任教師が入ってきて、クラスメイトふたりにそれぞれ不幸があったという、みんな知っている情報を伝えた。


 有名人になりたいからって、無茶をしてダンジョンに潜ることはやめなさい。そんな、当たり前の指導を口にした。

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