18.完全未探索階層の探索予定
湯田の遺体の回収や、美海やその取り巻きの保護は同僚たちに任せて、俺たちはワープでガレージに帰る。今日の配信もおしまいと宣言した。
「見て見て! 最大同接すごいことになってる。昨日より多い!」
「そうか。……狼を斬り殺してただけなのに」
「ズバズバ斬っちゃうからすごいんだよー。エンチャントの使い方も派手だったし、みんな見入ってたんだと思うよ!」
「お姉ちゃん! 投げ銭も結構来てるね! 一億円にはまだまだ足りないけど」
「だねー。やっぱりスパチャで稼ぐより宝箱から見つけた方がいいのかな?」
「うん。今日みたいな出来事、毎日起こるわけじゃないし。普段はほら、地味なバッテリー交換作業しか配信できないし」
「毎日戦いに巻き込まれるのも遠慮したいしねー。どうしよう、葵」
「ダンジョン行ってない普通のキャスターみたいに、雑談配信で稼ぐとかした方がいいかも。あとは、なんか企画を考えたりして」
「戦いがない日はそうするかー。あ、普通のDキャスターみたいに、克也と一緒に洞窟探検とかは? それはあり? なんか会社の規則的に」
「問題ない。パトロールしてるって体でダンジョン内を歩き回るか」
姉妹が真面目に金策を話し合っているから、協力的な返事をした。
俺が戦えば配信が盛り上がるなら、こっちからモンスターに向かっていくのもありだ。
作業着を来ている、ダンジョン側の人間が宝箱を見つけてレアアイテムを手に入れたら、運営が着服するなとクレームをつけてくる可能性はある。
でも、別にD-CASTはダンジョンを運営してるわけじゃない。社内規則的には、業務中に社員がアイテムを手に入れた場合は私物として入手しても良いとなっている。
詰め所で待機するのも仕事だから、自由に動き回れる時間があまり無いってだけ。俺の場合は、待遇が特殊だし親父に連絡を取れば許可は出るだろ。
「みんなー。ご飯できたわよー」
キッチンで四人分の夕飯を作っていた桃香がお盆を手にやってくる。オーク肉の卵とじ丼に、味噌汁と小松菜のおひたし。
「わー美味しそう!」
「桃香さんごめんなさい。お世話になってるのなら、わたしも料理手伝うべきなのに」
「いいっていいって。得意だし。というか、葵ちゃん料理できるの?」
「はい。ちょっとだけ。お母さんが入院したら、わたしが料理しないと……お姉ちゃんには任せられないので」
「あははー。わかるー」
「ちょっと葵!? 桃香さんも!」
「さ、みんなで食べよ! いただきます」
「いただきます!」
いつもより、ふたり多い食卓。桃香と向かい合って食べるのも好きだけど、にぎやかなのも良いな。
「んー! おいしい! 桃香さんお料理上手なんですね!」
「ありがとう! 毎日作ってるからねー!」
「克也ってば自分で料理しないんだ。お坊っちゃんだから」
「そんなんじゃない……やってみたら、下手だとわかっただけだ」
「そっかそっか。わたしと同類だね!」
こいつも料理できなさそうではあるけど、その評価は勘弁してほしい。
「あ、そういえば配信の盛り上がりの話、してたよね。今度、ちょっと盛り上がりそうな仕事があるんだけど」
言い返せない俺を見ながら、桃香が話題を変えた。
「盛り上がる仕事!! どんなやつですか!?」
「第十三階層の探索」
「十三……どんな所なんですか?」
「わかんないのよ。まだアンテナがひとつも立ってない。階段近くの拠点も作られてない」
どれだけ階段を降りればダンジョンの最下層なのかは、いまだに不明。世界中に目を向けても、最下層までたどり着いたという報告はないらしい。
このダンジョンではとりあえず第十二階層までは電波を中継する設備があるし、会社のレスキュー要員の詰め所もある。この階層の全容は明かされていないけど、とりあえず下の階層への階段は見つかっている。
十二階層の横方向の調査はもちろん行いつつ、十三階層にもいくつかアンテナを立てて会社の拠点を作れば、あとは命知らずなDキャスターたちがこぞって潜っていき、行ける範囲を広げていく。
未知の場所には未知のモンスターがいて配信が盛り上がるし、うまく行けば誰も持っていないレアアイテムを手に入れられるかもしれないから。
フロンティアスピリッツは偉大だ。
会社は、その配信画面とスマホの位置を解析して階層の地図を作りアプリに反映させる。それを見た後発Dキャスターがさらに入って探索は進んでいく。
でも完全未探索階層に最初に踏み込むのは、社員がやらなきゃいけない。
「十三階層に入って、ある程度の範囲の安全確保。階段横の拠点とアンテナを設置する用地の確認をするのがメインの仕事ね。範囲内に怪物がいたら、もちろん狩る」
「俺も参加する。他にも大勢の社員が行く」
「なるほど。それは面白そう……あれ? でも、未開の地ってことは電波が届かないんじゃ。配信もできない?」
「そこはなんとかできるわよ。持ち運びのアンテナもあるし」
「よし! 頑張ります! いつ行きますか!? 明日ですか!?」
急すぎる。
「会社なんだから、そんなにすぐにできるものじゃない。計画を立てて物資と人員の都合をつけて、決めた日に実行するんだ。再来週の水曜日にやる」
「そっかー。再来週かー。遠いなー。それまでは普通の配信で頑張るしかないかー」
灯里は落胆してるけど、それでも期待に満ちた顔をしていた。
「ところで桃香さん。このガレージってお風呂あるんですか?」
「あるわよー。お風呂もシャワーも、水洗トイレも流し台もあるわよー」
「えっ! ダンジョン内なのに!?」
「水を入れる大きなタンクを作って、そこに水を溜めてます。下水はガレージの近くの川に流れるようになってるの」
「へー。すごい。……タンクの水も、やっぱり川から?」
「いや。俺が出してる」
剣に水のエンチャントを付与すれば、いくらでも水が作れる。
「すごい! 便利! ガレージとは言いつつ家みたいですね! はー。快適」
「お姉ちゃん。あんまりくつろがないで」
「ここはわたしの家です……」
床に寝転んで心地よさそうな灯里。いい気なものだな。
一方の葵は、少し腑に落ちなさそうな顔をしていた。
「あの。水はいいとして、電気はどうしてるんですか?」
お。いい質問だな。