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16.インフルエンサーを目指した少女

 ブラッドレッドウルフ。通称、人食い狼。名前の通り赤い体毛が特徴で、人を襲って食らう性質を持つ。体毛は犠牲者の血の色だとか言われてる。

 獰猛な狼だから、一頭だけでも普通の人間では素手では勝てない。慣れたDキャスターなら狩れるだろう。武装もしてるだろうし。

 けど百体となれば無理だ。



「灯里。レスキューの仕事だ。ここ、どれくらいで行ける?」

「すぐいけるよ! よし、頑張ります! 葵も一緒に頑張ろうね!」

「お姉ちゃんが張り切ると、ろくなことにならないんだよね」

「ひどい……」

「桃香も来てくれ。敵の数が多い。たぶん怪我人も多いから人手が欲しい」

「おっけー!」


 灯里が壁に掛けられている工具の中から、大きなスパナを手に取った。彼女の腕くらいの大きさがある、立派な鈍器だ。


 そして四人で、ガレージ近くのワープポイントまで走る。



――――



「はじめまして! 美海っていいます! ダンジョンでの初配信、がんばるぞっ!」


 雨宮美海(まりん)が、ダンジョン第八層の階段付近でカメラに向けて愛嬌を振りまいていた。


 彼女はDキャスターとして成功することを夢見ていた。ちょうど昨日の深夜、スターライトキャスターという事務所からスカウトのメッセージが来たからだ。

 話題の折付克也と組んでの配信は叶わなかったが、ここで有名になれば彼も無視はできないはず。そして、あいつの実力を使ってさらに注目の的となる。そうすればインフルエンサーの仲間入り。テレビに出るのも夢じゃない。


 だから彼女はダンジョンに潜った。


 第八層まで行ったのは、折付と同じ階層ならバズるはずという、スカウトのメッセージに書かれていた内容に従っただけ。



 本来なら第八層は、初心者がいきなり潜るような場所ではない。第五層までなら出るモンスターもさほど強くはない。しかしその下は恐ろしいモンスターがうろつく場所。初心者が遭遇すれば死を覚悟しなければならない。


 しかし美海はそれを知らなかった。Dキャスターへの憧れだけがあって、ダンジョンについては知りもしなかった。

 なにかあれば助けてもらえる。運が良ければ折付に。むしろ彼がいる八層は安全。そんな認識だった。


 美海がここまで来れたのは単なる幸運。昨日の克也の配信の影響で、今日はダンジョンを訪れるベテランDキャスターが普段より多かった。

 モンスターが狩られる数も増えたから、美海と遭遇する確率が減っただけ。



 それを知らない彼女は、カメラに向けて愛嬌を振りまき続ける。配信に映っているのは美海ひとりだけ。けれどカメラを構えているのは美海の取り巻きだ。


 さらに、ふたりの取り巻きをマネージャー感覚で連れてきている。気分は既に芸能人。八層まで行くのは怖いと言っていたのを、無理に連れてきた。

 インフルエンサーで芸能人入り間違い無しのわたしのお願いを渋るなんてありえない。もっと別の取り巻きを見つけた方がいいかしら。内心ではそう考えていた。


 配信場所が階段の近くだから、配信に映り込む他のキャスターも多い。彼らが、ある瞬間から慌てふためいてその場から逃げ始めたことに、喋るのに夢中な美海は気づかなかった。



 そこに、大量の狼が雪崩こんできた。



「え? なに? 急になに!? あ! 待って!」


 取り巻きたちは美海より先に異変に気づき、逃げ始めていた。

 自分たちのリーダーである美海を見捨てて。


「待って! 怖い! 置いてかないで!」


 美海も狼に気づいて、ようやく逃げる。けど追いつかれるのは時間の問題。


「ねえ! 待ちなさい! 戦ってよ! スキルで守ってよ!」

「うるさい! 自分で戦って! あんたもスキルもらったでしょ!」

「だからダンジョンなんか来たくなかったの!」

「もう最悪! なんでこき使わされた挙げ句にこんな目に!」


 なんで。なんでこの子たち、この美海を助けないの?

 理不尽だ。なんでわたしがこんな目に遭うの?

 そうだ戦わないと。ダンジョンに入ったときに、頭の中で声がした。スキルを授けますって。なんのスキルだっけ。


 剣術がどうとかいうスキル。剣ってなに? どこにあるの?


「あっ」


 転んでしまった。背後から大量の狼の鳴き声が聞こえる。


 嫌だ。こんな所で死にたくない。


 狼を相手に、作業着を着たレスキューの男が何人か戦っている。剣や槍を装備していた。

 けど、こっちにたどり着く余裕はなさそうだった。



 直後、美海は顔を噛まれる鋭い痛みを感じた。



――――



「よしここ! 到着! って! うわー!? 狼がたくさん!?」


 灯里のスキルで階段近くまでワープしたのはいいけど、そこは当然狼が群れた真っ只中なわけで。

 周りを狼に囲まれてしまった。


「ぎゃー! お助けー! 助けてー! モフモフは好きだけどこれは怖い!」

「みんな伏せろ! エンチャント・(ウインド)!」


 最大出力で剣から風を吹かせて、周りの狼を後退させる。


「みんなこっち! ほら灯里ちゃん落ち着いて!」


 桃香が壁を指差しながら、灯里に走るよう促した。そして、スパナを振って飛びかかってくる狼の一頭の頭を殴打。

 葵も光る弓を作って、狙える的から射抜いていく。


「み、皆さん見てますか!? 今、怖い狼さんと戦ってます! 頑張れー! みんな頑張れー!」

「お姉ちゃんも戦ってよ!」

「無理です武器がないので!」

「その腕はなんのためにあるの!? 敵を殴るためでしょ!?」

「無茶言わないで! ぎゃー! 狼さんスカート噛まないで! 引っ張んないで!」


 相変わらず騒がしい奴だ。灯里のスカートの裾を噛んでる狼の首を思いっきり蹴り上げる。骨が折れる音と共に狼は死んだ。


 そんな調子で、なんとか壁際までたどり着く。追い詰められたみたいな状況だけど、とりあえず囲まれてはない。


 よし、反撃だ。

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