15.アンテナ整備業務
「紹介する。仕事する時の俺の仲間の桃香だ」
「やっほー。桃香です! よろしくね!」
『メカニック女子!!』
『タンクトップえっろっっっ!!』
『やばいかわいい!』
『仕事できそう!!』
桃香が画面に映った瞬間に、コメントがさらに加速した。
『桃香さんこれで良いもの食ってください!』
『新しいタンクトップ買ってください!』
『推しになります!』
『彼氏いますか!? フリーですか!?』
かなり勢いこんだコメントと共に、投げ銭もどんどん飛んでくる。
「あははー。こんなに注目浴びることなかったし、ちょっと照れちゃうわねー」
「ちょっと! わたし! わたしは!? わたし推しのひとは!?」
『あかりんもかわいい!』
『美女がコンビ組んでて最高!』
『コンビ? おいおい。ひとり忘れてないかい?』
『葵ちゃんもそこにいるかな!?』
「はーい。わたしもいますよー」
『葵ちゃん!!』
『かわいい!!』
『娘になって!』
『お姉さんがお小遣いあげるわね』
『これでお菓子でも買いなさい』
葵も画面に映った瞬間、コメントがさらに加速した。投げ銭も一気に来る。
「もう! なんでかな!? ほら! 早く仕事いくよ!」
『怒ってるあかりんも推せる』
「ありがとう!! 克也、仕事の内容は!?」
「電波中継設備のメンテナンス。主にバッテリー交換。緊急時の対応」
「よし行くよ! メンテナンス! レッツゴー!」
灯里がガレージの戸を開けて洞窟に出た。そして。
「……どこに行けばいいんだっけ」
行き先がわからないのに先頭を歩こうとするな。
「ここだ。あと、こことここ」
「なるほど! 最初はこのアンテナだね」
灯里が指したのは、ガレージから一番遠いアンテナ。効率のいいルートを考えるにしても、最初に向かうのは普通ではありえない位置だけど。
「では参りましょう。わたしに触れてね。ワープ!」
このスキルを持っていると、ルート作りの考え方がまったく違ってくるらしい。
二回のワープで、目的のアンテナのすぐ近くに着いた。
「すごいね灯里ちゃん。バイクで向かうよりずっと早い」
「でっしょー? わたし、これしかできないので!」
自慢げに言うな。
『ワープすげぇ!』
『あかりんすごい!』
『移動する先の位置とか全部覚えてなきゃできないよな、これ』
「ふふん! もっと褒めていいんだからね!」
「お姉ちゃん、調子に乗らないで」
『しっかり者の妹、いいっ!』
『葵ちゃんかわいい!』
『俺も罵られたい!』
『むしろ射抜かれたい!』
『お小遣いをあげようねぇ』
「あの! なんで葵の方がコメント伸びるんでしょうか!?」
コメント欄と喧嘩するな。
なんだかんだで盛り上がってる配信を俺も自分のスマホで見つつ、仕事をする。
洞窟内に電線を張り巡らせるわけにはいかないから、アンテナはバッテリーで動いている。
イタズラやモンスターの攻撃から守るための柵の鍵を開けて、特に動作に問題がないか確認。その間に、桃香は携帯式の臨時アンテナを作動させていた。メンテナンス中も通信障害が起こらないための措置だ。バイクに搭載されているのと似たようなもの。
点検するアンテナの電源を落とし、持ってきたバッテリーと交換。再度電源を入れて動作確認。
「よし終わり。次のアンテナ行くぞ」
「い、今ので終わり!?」
「おう」
定期的にやってるメンテナンスだ。アンテナに異常もないし、別に特別なことをしてるわけでもない。
「な、なんか配信が盛り上がるようなトラブルとか、ないのでしょうか!?」
「ない」
「えー」
日常点検がバズってたまるか。裏方の仕事は、こういう地味なものだ。
「うー。なんかこう、派手な出来事とかないかなー」
「ほら、次のアンテナまで連れて行け」
「はい……」
あまり気の乗らなそうな灯里によって、次の場所までワープで連れてってもらう。そして同じく地味な作業をして次に行く。
ワープのおかげで、一通りの仕事がかなり早く終わった。
「灯里ちゃんすごいわね! バイク移動も楽しいけど、移動が速いってのは良いわね!」
「ありがとうございます……盛り上げポイント……撮れ高……」
ガレージに戻った俺たちだけど、灯里のテンションは低いままだ。まだ配信中だってのに。
「盛り上がりってつまり、誰かが襲われて助けに行くとかのことだろ? そんなのない方がいい。みんなが安全にダンジョン配信できてるならそれが一番だ」
「あー。なんて立派なご意見。でも、配信的には、もっとこう……あるんです」
『しかたないよ、あかりん』
『元気出して』
『平和が一番だよ』
『葵ちゃんにお小遣いあげるから』
「はい……投げ銭ありがとうございます。ですよね、平和が一番。間違いないです。ここのまま平和が続けばいいなー」
『それフラグ』
「そんなつもりはないです!」
コメントと楽しくおしゃべりしているだけの配信。それで満足する視聴者もそれなりにいるらしい。
灯里に、かわいいし受け答えが笑えるとか、そんなコメントもついている。コメントの流れはゆるくなったけど、こういう配信も悪くない。
そう思ってたのに。
『折付くん。救助要請です。第七層でブラッドレッドウルフが大量発生しました。近くのキャスターを襲った後、階段を降りて八層へ入り込ました』
オペレーターから連絡があった。
階段近くなら、他のレスキュー要員の詰所もある。俺が出る幕ではないだろうけど。
「大量発生?」
『百頭近い群れとのことです!』
それは多いな。