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14.ダンジョン内配信

 葵の大荷物を運ぶのを手伝いながらダンジョンへ向かう。学校の最寄り駅からダンジョンの駅まで、電車で一本だ。


 途中、桃香に連絡した。ガレージの持ち主は桃香だから、灯里たちが住みたいなら許可が必要。


『かしこまりました! 準備しておくわね!』


 とのことだ。


 電車の中でも、俺たちを見てヒソヒソと話す者は多かった。中にはおおっぴらに、配信見るぜと声をかける者も。

 有名人になってしまった。まさかこれ、一過性のものではないのか?



 D-CASTの事務所から預けていた剣を返してもらって、制服から作業着に着替えた。

 会社に言えば灯里の作業着も用意してもらえるだろうけど、彼女はトレードマークとなりかけている制服での配信を希望した。

 あと、葵に至っては雇用関係ですらない。さすがに小学生は雇えないから、姉の配信に写り込んでるって扱いだ。だから私服で参加することになる。


 準備ができたから、三人揃ってダンジョンへの階段を降りた。


 日課の、ガレージまでのランニングを始めようとしたのだけど。


「では、わたしたちはワープで行きますので!」

「ごめんなさい克也さん。わたしたち、克也さんについていくほどの体力がないんです」

「ああ。わかった」


 それは仕方ない。別についてきて欲しいわけではなかったのだけど。


「フレフレー。克也頑張って! ファイトだよ!」

「ふふん。ワープ無しで移動しているにしては、やるではないか」

「いいタイムだよ! 昨日の自分を超えるのをイメージしようね!」


 階段につくたびに灯里が待ち構えているのが、ウザい。

 というわけで、ちょっと本気を出すことにした。灯里だって、ポイント間は走らないといけないわけだ。しかも今日は大荷物を抱えている。


「やるねー。もっと本気だしてもいいんだよ?」

「お? 思ったより来るのが早い?」

「わっ! ちょっと待って! 早くない!?」

「わわっ! 葵! もっと速く走らないと! てか追いつかれてる!?」

「負けたー!」


 第八層。灯里が来るはずのワープポイントに、俺は先にたどり着くことに成功した。ワープしてきた灯里がその場に崩れ落ちるのを見届けてから、ガレージまで走ってストップウォッチを止める。


 記録を大幅に更新していた。


「よしっ!」

「も、もう一回! 今度は負けないから!」

「お姉ちゃん大人げないよ?」

「だってー!」

「いらっしゃい灯里ちゃん、葵ちゃん。上がって上がって。自分の家だと思って過ごして」

「お世話になります、桃香さん。無理言ってごめんなさい」

「いいのよ。家族が増えるの、わたしも嬉しいから」

「ほら。お姉ちゃんも挨拶して」

「ぐすん。よろしくお願いします、桃香さん」


 出迎えた桃香に、灯里も立ち上がって頭を下げた。


「それで、早速配信を始める?」

「はい! すぐやりましょう!」

「おっけー。じゃあその前に、克也スマホ貸して?」

「え? なんで?」

「ここをこうして……。はい、灯里ちゃんの配信に来たコメント、克也の方でも見れるようにしておいたわよー」

「なんでそんなこと?」

「その方が楽しいでしょう? じゃあ、後は好きに始めちゃって!」

「はい! やりますね!」

「おい待て。準備とか必要なんじゃ」

「全てはノリと勢いです! えい!」


 灯里は躊躇なく配信を開始。昨日言った通り、ガレージ内は映さず壁を背景にした。


「やっほー! あかりんだよー。今日からD-CAST公式キャスターとして、折付克也くんと一緒に配信していきます! 今はダンジョンの第八層。克也が拠点にしているガレージの中にいます」


『待ってたよー!』

『あかりんかわいいー!』

『頑張って!』

『公式キャスターすごい!』

『克也くんもかっこいい』

『克也くんのファンです』

『モンスターやっつけて!』


「みんなありがとね。ほら克也も挨拶して」

「……どうも。お世話になってます」


『真面目ー』

『でもそこがいい!』


 なんなんだこれは。


「えっと、克也が格好良く戦うかは、敵が出てきてからのお楽しみということで。とりあえず、普段の仕事の感じから説明できたらなと思います! 克也、D-CASTってどんな会社なんですか?」

「ダンジョンを探索したり、配信活動をするキャスターの支援をする会社だ」

「なるほど。具体的なお仕事は?」

「ダンジョン内の電波環境の整備と、配信補助アプリの開発、モンスターに襲われたり内部で遭難した人のレスキューがメインの仕事。ダンジョン内で迷った人や、怪我をして動けなくなった人間が要請を出すと助けに行く。勝てないモンスターに襲われた時にも急いで駆けつける。他の業務としては、グッズ販売やダンジョン内で入手できるアイテムの売買もやってる」

「ダンジョンに関わるお仕事、なんでもやってるって感じなんですね!」

「ああ。親会社の会長がダンジョンからアイテムが出たってニュースを知った時、知り合いからこう言われたのがきっかけで事業を始めた。"ゴールドラッシュで一番儲けたのは、ツルハシを売った人間だ"」


『おおー』

『会長あたまいい!』

『いや。頭がいいのは、咄嗟にその名言出した奴だろ』

『それで会長はツルハシ売りになったんだな!』


 配信画面にコメントが流れて合いの手を打ってくれる。ちょっと楽しかった。


「では、克也が普段やっているお仕事に、わたしは密着したいと思います! どんな仕事をしているんですか?」

「さっき挙げた内の、電波環境の整備がメイン。必要ならレスキューもする」


『戦う整備員!』

『レスキューはついで……だと……』

『専門職のレスキューの立場がない』


 そんなこと言ってやるなよ。彼らは日頃頑張っているんだから。俺はその手伝いをしているだけだ。


「じゃあ、早速仕事に行きますか。つまりダンジョン内配信です」


 灯里の宣言に、コメントの流れが早くなった。

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