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13.雇用契約とその発表

 その日の日中に、事務的な手続きを行う。授業はサボって、体育館裏に潜んでスマホで各所と連絡を取って進めた。


 灯里を株式会社D-CASTのバイトとして雇用。主な仕事は、配信によって俺や社員の仕事の模様を伝える広報だ。当然、時給も出す。

 配信中に来たスパチャは、アプリが最初から規定している手数料以外は全額灯里に渡る。


「そ、それでいいんですか!? 前の事務所は半分持っていったのに!?」

「いいんだ。本当にバズが続いて……というか、灯里が人気キャスターになって大量に稼ぐなら、手数料だけでも会社は十分に儲かる」


 それから、灯里とスターライトキャスターの雇用関係の完全な解消も必要。今のところ、口約束のやめてやる! でしかないから。

 これはD-CASTから会社同士の話し合いで処理することに。灯里個人が事務所に行けば話がこじれそうだから。

 スターライトキャスターも、他にDキャスターを何人か抱えている。ダンジョンのインフラを支えている会社と関係悪化は避けたいだろうから、そこはすんなり行くはずだ。



「そうだ。今日の放課後から配信するんだよね? 今のうちに宣伝しとこうよ」


 昼休みの時間が近くなった頃、灯里が提案した。


「宣伝?」

「そう。夕方の配信を、大勢の人に見てもらえるように。早速やりましょう」


 灯里は俺と並ぶように座ってスマホを操作。自撮りするように腕を伸ばして、配信開始のボタンを押す。


「やっほー! あかりんだよー! 昨日は色々あって大変だったね!」


 配信開始直後、同接数ゼロの瞬間でも構わず灯里は喋り始めている。その数字がまたたく間に増えていくのを、俺は少し驚きながら見ていく。


 同接数は一瞬にして一万近くまで上り、さらに増えていく。

 平日の昼間。ちょうと昼休憩の時間ではあるけど、こんなに見に来る人がいるなんて。


「わわっ! 人がたくさん! ありがとうございます! ええっと、お知らせがあります。あかりん昨日、事務所をクビになっちゃいまして」


『ええー』

『クビ!?』

『かわいそう』

『あかりんちゃん悪くないのに』

『あかりん? あかりんちゃん? どう呼べば?』

『事務所はクソだな』

『タレント守れない事務所になんの意味が』

『あかりんかわいい!』

『隣にいるのが例の克也くん?』

『またスゴ技見せて!』

『カップルみたい!』


「あ、あかりんでお願いします!」


 真っ先に拾うコメントがそれかよ。


「みんなありがとね! でも心配いりません! わたくしこのたび、D-CAST公式キャスターに就任することになりましたー! 拍手ー」


『パチパチパチパチ』

『888888』

『すげー!』

『公式!?』


 確かに会社のお墨付きで配信するから公式ではあるか。


「放課後に早速、ダンジョンに入って克也くんのお仕事の様子を配信します! みんな、SNSとかでいっぱい宣伝して、見に来る人を増やしてほしいな!」


『りょ!』

『楽しみ!』

『克也くんまた暴れる?』

『克あか尊い……』


 おい。最後のはなんだ。


「もー! わたしたち、そういうのじゃないってば!」


 やめろ。恥ずかしがりながら否定するな。それは肯定とさほど変わらない。


『なになに? ふたりはそういう関係?』

『クラスメイトだもんなー』

『アオハルだねぇ』

『まあそんな気はしてた』

『わしらも昔はこんなことしてなあ』

『そうですねぇおじいさん』


「えへへっ! じゃあ、また放課後よろしくね! みんな見に来てねー! ばいばーい!」


 最終的には二万人近くいた視聴者の誤解を打ち消すことなく、灯里の配信は終了。


「これでよし、と」

「よくない! なんなんださっきのは!?」

「カップル系キャスターって人気出るんだよ。青春を思い出したい人とか、片方に自分を投影してして恋愛の真似をしたい層が見るって、葵が言ってました!」


 前者はともかく、後者は地獄みたいな理由だな。そんなに恋愛したいなら疑似じゃなくて本物をやれ。


「わたしたちはビジネスパートナー。こういう関係で見せつけるのもいいかなって。キャスターとしての戦略です!」


 そして、自信満々に無い胸を張る灯里。こいつは。


 本当に灯里とやっていけるのか、自身がなくなってきた。



 放課後、葵が高校の校門前で待っていた。

 ランドセルの手提げかばんの他に、妙に大きなキャリーケースを持っている。


「お姉ちゃんから聞きました。わたしたちの配信のお手伝いをしてくれて、ありがとうございます」


 姉よりずっと礼儀ができている葵は、俺にペコリと頭をさげた。


「克也さんはダンジョン内にお住まいなんですよね。わたしたちも、母が入院中なので家では姉と二人暮しです。せっかくなので一緒に住ませてもらえたらと思いまして」

「おいおい」

「葵それって」

「克也さんの姿を配信するなら、そういう普段の感じとかも撮ったほうがいいかなって。別に、四六時中配信するわけじゃないんですよ。撮った映像を編集してネットにアップするだけでも、再生数稼げそうですから!」

「な、なるほど……葵天才だね!」

「でしょー! お姉ちゃんの着替えとか、パジャマとか歯ブラシも入れてるよ。あと寝袋も!」

「もー! 葵大好き! 天才! 克也! ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」

「なんでそうなる」


 本当に、こいつと組んで良かったのだろうか。

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