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11.クラスの歓迎ムード

 翌朝。ガレージ内の簡易ベッドで眠っていた俺は目覚ましが鳴る時間に起床。

 軽く運動してから作業着を着て、剣も腰に差す。


 桃香が作った朝食を食べて、桃香のバイクで第七艘に続く階段まで送ってもらう。

 七層以降はダンジョンに入る時と同じく徒歩移動だけど、階層によっては。


「よう克也。乗ってくか?」


 そんな感じで、D-CASTの社員と出くわすこともある。その階層で働いてる社員が、暇だとか移動のついでとかで自転車に乗せて階段まで送ってくれる。


 さすがに洞窟エリアをオフロードバイクで走ろうとする奴はいないけど、階層が上がるにつれて道は平坦になる。ひとつの階層が広いのもあって、移動手段を用意している作業者は多い。


 みんな気のいい人ばかりだ。俺を会長の息子ではなく、真面目に仕事をしている仲間として扱ってくれている。

 それはいいんだけど。


「見たぜ、昨日の配信の切り抜き。有名人だな!」

「一時的な流行りだよ。すぐに忘れられる」

「そうとは限らないぜ。克也の実力をみんな知ったんだ。何あったらお前に頼りたいって奴が山ほど出てくる。忙しくなるな!」

「何もない方がいいし、俺はレスキューよりは設備の整備担当なんだけど」

「けど、要請があれば助けるだろ! 頑張れ!」


 好き勝手なことを言いやがる。ようやく階段に着いて解放されたと思ったら。


「やっほー。克也くん乗ってく? あと、昨日は大活躍だったね!」


 別の社員が待ち構えていた。勘弁してくれ。




 ダンジョン内では武器の携帯は許可されているけれど、外では銃刀法に触れてしまう。

 アイテムの取引のための持ち運びは法改正で可能になったものの、学校に持っていくのはさすがに無理だ。


 ダンジョンのすぐ近くのD-CAST支店のロッカーに保管させてもらっている。そこでも職員から声をかけられたのは言うまでもない。

 ロッカーには学校の制服も入っている。作業着からそれに着替えて、同じように登校する高校生の群れに紛れて学校まで向かった。



 どうやら学校でも、俺の評判は広まってるようだった。


 俺が校門に入ると周囲の視線を感じた。敬意と好奇心の混ざった目。一年生の俺に、上級生までが一様に注目していた。


 話しかけられるとウザい。よし、走ろう。


 毎日洞窟で鍛えてる足で、教室まで一気に駆け抜けた。本当は廊下を走りたくなんかはないんだけど今日は許してくれ。


 けど教室でも状況は変わらなかった。クラスメイトはみんな俺のことを知ってるわけで。


 それでも俺はクラスメイトのひとりである灯里に用事があった。教室に入って姿を探す。席に座っていた。彼女も俺に気づいて手を振って近づいてきて。


「おいおい折付! おまえすげえな!」

「ぎゃわー!?」


 俺に駆け寄ってきた他のクラスメイトたちにぶつかって、弾き出されてしまった。


「配信見たぜ!」

「あれ、なんてスキルなんだ!?」

「レスキューの仕事ってすごいね!」

「ねえ。わたしもキャスターやりたいんだけど、一緒に来てくれない?」

「あ! 俺も俺も! 折付ダンジョンに連れてってくれ!」

「わたしも行きたい!」

「僕も!」

「俺も!」

「はいはい! あなたたち。折付くんが困ってるでしょ?」


 一際響く声がして、ざわめきが静かになった。


 クラスメイトの、とある女子の声。

 雨宮美海(まりん)。クラスカーストトップの女子だ。美人でよく通る声をしていて、取り巻きを何人も従えている。

 ダンジョンとは関係なしに動画配信者として活動しているらしい。仲間内で動画を作ってはネットに上げている。いつか人気キャスターになるのを夢見ているのだろう。

 動画の出来や今の評判は知らない。



 そんな彼女が俺の方につかつかと近づいてきて。


「折付くん。あなたのスキル、素晴らしいわね」

「それはどうも」

「ねえ。わたしもDキャスターに興味が出てきたの。良かったら組んで、一緒に配信しない? わたしのグループに入れてあげるわよ?」


 入れてあげる、か。上から目線だなあ。


「ありがたい申し出だけど、断る。俺は仕事でやってるんだ。他のキャスターと一緒に配信するつもりはない」

「なっ!?」


 まさか断られるとは思っていなかったのだろう。美海は驚いた顔をした後、微かに表情を歪めた。


「あんたね。美海が誘ってくれてんだよ?」

「折付みたいな陰キャが輝けるチャンスなんだよ?」


 取り巻きの女が詰ってくるが、そんなこと言われても俺の意志は変わらない。


 ふと、クラスの輪の向こうに灯里の姿が見えた。

 必死にぴょんぴょんと跳ねて、こっちに来いのジェスチャー。


「ごめん。用事ができた」


 クラスメイトたちをかき分けて、灯里の方に向かう。彼女は既に教室から出ていた。ここでは話しづらいので、俺としてもありがたい。


 俺とつかず離れずの距離を保ちながら校舎の隅に向かっていく灯里を追いかける。それはいいのだけど。


「折付! お前調子に乗るなよ!」


 クラスメイトのひとりが俺を追いかけてきたらしい。

 湯田という奴だ。


 あまり素行のよくない乱暴者。そのくせ不良になるほどの度胸はなくて、クラスの大人しい奴に威張り散らすのがせいぜい。

 分不相応に色気づいて、彼女を欲しがってるらしい。けど普段の振る舞いが問題で、女と仲良くなる段階にもいけない。


 クラスでは目立たない枠の俺が脚光を浴びたのが気に食わないのか。俺に黄色い声を上げていた女子の中に意中の相手でもいたのか。


 とにかく、俺はこいつを怒らせたらしい。


「陰キャの折付のくせに生意気なんだよ。なにがレアスキルだ。ダンジョンの外だと雑魚なんだよオメェは!」

「そうだな。スキルに助けられてるだけだと思う」

「ふざけんなよ!」


 なんで向こうの言い分を聞いてるのに怒られなきゃいけないんだ。

 まあ、俺も湯田を馬鹿にした言い方をした自覚はあるけど。


 ともかく、激高した湯田は殴りかかってきた。

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