7 探索者登録
今日はセントディアの探索者協会に行って、僕とブルーのアイデンティティーカードを作りに行く日である。コーレストの家に来てから十五日目でやっと街に出られる。今までガーデンへの散歩以外は剣術の修行をしていたからなあ。
いつものようにコーレスト、ブルーの三人で朝食をすませると、ブルーと僕は、屋敷の隣に建てられているこじんまりとした家に、地下の通路を通って移動する。そしてその家の玄関から街に向かう。
十五歳になったら訪ねて来るであろう僕のために家を用意してくれていたのだ。
探索者らしく帯剣しているのはコーレストから贈られたショートレイピア。
僕は野山をかけまわって遊んでいたせいか、コーレストから動きが俊敏だとの褒め言葉をいただいた。それだったら軽くて素早さを活かせる剣がいいだろうということで、銅の剣からショートレイピアへと変えたのだ。これでブルーに【加速】をかけてもらえば、より早く動ける。
剣術の未熟さをスピードで補う、バッチリじゃん!
街中に出るとなんだか、いろんな人が僕らを見ているような気がする。気のせいか? 確かにブルーはかわいいが、今はフードをかぶっているので顔は見えないはずだ。ということは、僕ら、ではなく、僕、を見ている?
よくわからないけど、気にしない、気にしない……
不安な気持ちを誤魔化すようにブルーに話しかける。
「街にはプリンっていう、おいしいスイーツがあるんだって。登録が終わったら喫茶店に寄って食べてみようか」
「デートですね。うれしいです」
フードをかぶっているので顔は見えないがブルーの楽しそうな声が聞こえた。
探索者協会の一階は広かった。奥に受付があり、右側が、よくいえば談話室、ふつうはパブといわれる場所である。
左側には掲示板があって依頼が貼り付けられている。
やはり、見られている。なぜこんなに僕は見られているんだ?
かっこいいからかな? いや、そんな好意を持った視線ではない。探るような視線だ。
受付に行き、目の前の女性にIDカードを作りたいのですが、と言ったら、その女性は、僕の顔を見て、隣のフードを見て、
「えーっ!来たーーーっ!」
と叫んで、受付奥の扉を開けて中に入ってしまった。
なんだ? 何が起こった?
ブルーは落ち着いた動作でフードを外した。
開け放した扉から髭を蓄えたガタイのデカい男、五十代くらいだろうか、が出てきた。
僕と、フードを外したブルーを確認して、
「悪いな。どうも受付嬢が勘違いをしたようだ。なに、コーレストというレベル7の弟子がセントディアに来ているという噂があってな。その人相におまえさんが似ていたのさ。
切れ長で、黒い瞳、少し鼻が高く、瓜実顔、黒い髪の男、まあ顔立ちは噂と同じに見えるな。隣のお嬢さんがフードをかぶっていたので、おおかた、コーレスト本人と間違えたんだろう」
顔が引き攣りそうになるが、つとめて表情を変えないように意識する。
「そうなんですか。そんな噂があるんですか? 」
「あくまで噂だ。まぁ、コーレストの弟子なら魔術師のはずだし、レイピアは少し特殊な剣、おまけにそのレイピア、短めで何か仕掛けがありそうだ。そんなレイピア、魔術師は持たない。おまえさんは噂の人物とは違うようだ」
ブーーーッ、大将、あなたの回答はハズレです。僕が噂の人物です。
ショートレイピアさげていてよかった。でも、このショートレイピアの特徴がバレてそうだ。この男、ただものではないな。
ブルーはさすがに落ち着いていて顔色ひとつ変えていない、ように見える。
周りの視線も僕から離れ出している。
そうか、あの時の門番が噂を広めたんだ。さすが、門番、顔の特徴を、あの短い間でよくとらえたな……
どうする? 誤魔化したほうがいい?
いや、…………ここは変に誤魔化さないほうがいいかもしれない…………
昨日隣の家に引っ越しておいてよかった……
「その噂の人、きっと僕だと思います」
?!
大将も目をむいて驚いているが、周りの視線がいっぺんに集まったのを感じる。
みんなウサギの耳になってるな。
「でも弟子ではありません。コーレストはおばさんで、家を出なければならない次男の僕の面倒を見てくれています。姉と一緒ですが。おばさんの隣の家に住んでいます」
「いつもおばがお世話になっています」
すました顔でブルーが続ける。
昨日の打ち合わせ通り。探索者協会に行くにあたって作戦会議を事前に開いているのだ。
「いや、それは知らなかった。悪かったな。迷惑をかけたかもしれん」
「いえ、きっと門番の人が勘違いしたのだと思います」
大将も視線の主たちも、なんかホッとしてない? そんなにコーレストって怖いのかな、まあレベル7だし。
もしかして、なにかあるのかな?
無事、レベル1のIDカードを発行してもらい、帰路についた。
もし、ショコラが弟子になっていたら、すごーく大変そう。
ショコラ、どこでどうしてるんだろう、元気にしてるかな。