43 召喚師 シャノン・エルノー
レスリーは調査の失敗によって、謹慎・降格処分が下された。
謹慎が明けたあとのレスリーは、いつも俯きがちに歩いて人目を避けているようにも見えた。魔導師団の中でレスリーに話しかける者はいない。上層部に目をつけられるかもしれない、そんな恐れもあったが、何より、同じ魔導師団の仲間を見殺しにしたということが大きかった。
このままではとても団の中に居続けることはできないだろう。誰しもがそう思っていた。
しかしシャノン・エルノーだけは違った。
シャノンはアンリエッタと同じ、羽根ものを呼び出す召喚師である。飛翔ものつながりで意気投合し、アンリエッタと仲良くなった。
シャノンは最初、レスリーのことを憎んだ。
団の中でもっとも仲が良かったアンリエッタを見殺しにした男。自分だけがタワーから戻り、生きている男。
しかし、シャノンは見てしまったのだ。たった一人、庭で膝を抱えて座っていたレスリーが、密かに笑みを浮かべていたのを。おそらく誰も気づいていないだろう。
下を向いて、はっきり顔が見えない中で浮かべる笑み。注意して見てなければ、下を向いて泣いているようにも見えたはずだ。
私のように、憎しみを持って凝視してなければ、誰も気づかない。
なぜ、仲間を見殺しにして笑える? 彼女の遺品すら持ってこなかったのに。
なぜ、笑える?
なぜ?
ふと、アンリエッタが、ここにはもう、いたくない、そう漏らしていたことを思い出した。
ぁ …………今、結びついた…………
笑み、と、つぶやき。
まさか。
レスリーはアンリエッタを外に逃したのか? そう考えると、あの笑みも納得がいく。
レスリーは魔術師だ。
【偽装】も使える。異世界の中ではなにが起こっても、事実を知るのは当事者だけだ。他の人にはわからない。確認ができない。
レスリーとの調査の前には、ジュリー・クロスと二人でダンジョン調査に行っている。彼女の初仕事。喜んでいた。
ジュリーも絡んでいるのか? いや、それはないだろう。ジュリーは騎士、絡む理由がない。
外に逃げるといっても、どこに行く? 【偽装】はほどなく解けてしまう。セントディアには知り合いはいないはずだ。そもそも召喚師は街に出たことがない。タワーで死んだと見せかけて、逃げたところで、行くところもなく、すぐに見つかってしまうはずだ。
でも、たぶん、団からの脱走を手伝ったのだ。
それがうまくいった。
アンリエッタが実は生きていた、見つかったという情報も、まったくない。ないからこそ、うまく逃げおおせたということだ。
その、笑みだ。
レスリーはきっと、近いうちに団を辞める。表向きは、アンリエッタの死の悲しみに耐えきれず、責任を取るという体裁だろうが、実際は逃がしたアンリエッタを探して会いに行くためだ。
シャノンは、アンリエッタが生きていることを確信した。いや、信じたかった。
なんとか探す方法はないだろうか?
なんだ、あるじゃないの。私が召喚するカラスくんたちに探させればいいのよ。
シャノンが召喚するものは、二十羽をゆうに超えるカラスである。アンリエッタのように魔力の糸でつながることはできない。その代わり一羽のカラスがリーダーとなって、統率を取る。集めた情報もシャノンに伝えることができる。
私のカラスくんなら、変装していてもアンリエッタをたぶん、見つけることができる。
カラスって賢いんだから。
まあ、ないとは思うけど、ジュリーにもそれとなく聞いてみよう、そう思いながら、シャノンはカラスを三羽、人に見つからないよう、夜の闇に紛れて、密かに放った。
レスリー・クロスが任務の失敗の責任を取るという理由で、魔導師団を退団したのは、カラスが放たれた数日後のことである。




