38 マリカの不安
ミュート家に居候して数日が経った。
ジュリーの姿をしてミュート家に、とりあえず逃げ込むことまでは計画の中だった。
しかし、その先は考えていなかった。なるようになれ、そんな気持ちもあったが、ジュリーのことばに頼った。
セントディアに知り合いはいない。そもそも、自由に外出できる身ではなかった。召喚師の行動は制限が多い。
ジュリーがミュート家と、あるかないか、よくわからないような繋がりを作ってくれたのに、賭けたのだ。
ジュリーが言っていた。
「ミュート家って、とっても人がよさそうな気がする」
細かいことはわからないが、そのことばを信じて頼った。
けれど、ミュート家は謎だ。
会話のやりとりは、ときに、トンチンカン。肝心のところはーー勘違いをしているようにも思うし、わかっていながら意図的だとも思うしーーうやむやにしてくれて、助けられている。
私は盗賊として、国に追われていることになっているのも謎だ。盗賊でもないし、まだ、国にも追われていないはず……
二人は姉弟というが、二人で一つの部屋、同じ部屋で過ごす姉と弟。
姉の、弟を見る視線は、弟というより男としてのものを感じる。同じ女としての勘だ。
血のつながっていない姉弟?
部屋を見ていないのでわからないが、まさか、一つのベッド?
…………変なことを考えてしまう…………
ただならぬ関係かもしれない…………
それでも、二人とも、私がいえた義理ではないが、世間知らずと思えるほどの、のんきさだ。
二人に世話になっているのに、そんなことを言ってはいけません。はい、そのとおりです。
私は、お手伝いさんという立場をもらった。
私がミュート家に来たことを、なぜか、当然のことのように、事情はわかっていますというように、受け入れたのは、姉のブルーだ。
お手伝いさんという立場をくれたのも姉のブルーだ。
もしかしたら……もしかしたら、あのとき、私の指示を無視した、私の蝶、それは、このブルーのせいかもしれない。
ここで蝶を召喚して蝶に聞きたい。あのブルーという姉に誘導、誘惑されたのかと。
でも、それは、自分が召喚師だと明かすことになるだろう。リスクが大き過ぎる。
あるいは、知らないほうがいいことを知ってしまい、逆に、自分が苦しい思いをするような、そんな気もする。
もしかしたら、私が召喚師だと知られている?
いやいや、そんなはずはない。知られるような原因も理由もない。
弟のギャレットも謎だ。
魔力もなさそうだし、剣術も、よくて並だ。なにもできそうに見えない。。しかしIDカードはレベル2だという。
どうしてその実力でレベル2に上がったのだろう。
そもそも、あのモンスターハウスをどうやって切り抜けたのだろう。
やはりブルーだ。あの姉があやしい。
もう一人、魔術師がいた。その魔術師も優秀な者に違いない。
もしかして、この二人は国の特別エージェント?
そう考えると、この姉弟の行動がまだ理解できそうだ。
特別エージェント、特A、噂には聞いていたが、この二人は、その可能性もある……
もし、そうだったら、レスリーにあれだけの迷惑をかけて魔導師団を抜けて、ここに来てしまった私はピエロだ。
レスリーは、私の未来を信じて応援してくれたのに。
レスリーは無事でいるかしら? 無事でいてほしい……
信じよう、ジュリーのことばを。
信じよう、レスリーが信じてくれた私の未来を。
信じよう、なにより決断を下した私自身のことを。
信じよう、ブルーの意味不明な行動は好意だと。
信じよう、ギャレットの……………うん、信じていいよね、信じていいのかな……彼が一番不安だ……いい人なんだけど。
ギャレット……
女郎蜘蛛が人に化けることはあるけど、蝶が人に化けることは、ないからね。
たしかにあんなのが弟だったら、かわいいかもしれない…………
ブルーの気持ちもなんとなくわかる気がする。




