37 買い物
翌日、僕はガーデンでの仕事をお休みして、買い物をするために一人で街に出た。
せっかく街に来たから、昼食を食べながら街の噂話でも聞いてみようと思って、さつき亭という食堂に入った。定食を頼んで、耳を澄ますと他のテーブルの雑談が聞こえてくる。
ダンジョンレベル1の遭難事件は剣聖の弟子が解決したらしい。
ショコラのことだね。
金属ゴーレムが出現するというタワーレベル2では調査に入ったはいいが、死人が出てしまったようだ。
これから行く予定のあるタワーだ。かなり用心しないといけない。
『隠匿星夜』という盗賊集団がセントディアに潜入したらしい。
待ってるのに来てくれない人たちのことだ。
コーレストの弟子だと思われた男が、実は甥なんだが、魔術師でもないし、からっきし実力がないみたいだ。
それって僕のことだよね。聞くんじゃなかったよ。
ご飯、食べた気がしなかった。
さつき亭を出ると、あの怪しげな遺物屋さんに向かう。
中に入って、並んだ遺物を見ていくと、あった。偽装の仮面。これを買いに来たのである。
蝶に戻れば、問題ないとも思うのだが、きっと蝶に戻ると、二度と人にはなれないのだろう。【偽装】にも限界がある。その点、仮面であればいつでも大丈夫だ。
店主に、これをお願いします、というと、店主は僕を見て、この間の指輪の方だね、仕事は順調か、と尋ねてくる。
「仕事は順調だけど、ちょっといろいろあって、時期を待ってるのさ」
僕がそう言うと、店主は、いつぐらいの予定なんだ、とさらに尋ねてくる。
「そうだね。もうすぐ二十日に一日の休みの日が来るから、もうすぐなんだ」
店主は、なるほど、わかった、と言って、仮面を売ってくれた。
仮面を買う条件が、スケジュールの確認だとは思わなかった。
家に帰って、アンリエッタに偽装の仮面を渡す。
「これがあれば自由に外出ができます。ありがとうございます」
アンリエッタはとても喜んでくれた。
昨日はブルーも僕の思いつきをとてもほめてくれたし、いい気分だ。街での噂を聞かなければ、もっといい気分になれたのに。
アンリエッタに、偽装の仮面はどんな顔にするの、と尋ねたら、マリカ・トーザンの顔を借りると言っていた。
なんでも同郷の友だちの顔で、セントディアにマリカの知り合いはいないから、安全らしい。
マリカは、黒い髪で、目がぱっちりしている。アンリエッタとは見た目がぜんぜん違う。別人だ。
今日からはアンリエッタのことをマリカと呼ばなくてないけないね。
アンリエッタ、ではなく、マリカは、
「もち」
と答えた。
もち?
もちってなに?
顔だけじゃなく、ことばづかいも変わっちゃうの?
仮面、すごい。




