36 三人目の訪問者
夜、呼び鈴が鳴った。今度こそ、ほんとうに今度こそ、盗賊団だと信じて扉を開けてみたら、先日クッキーを持ってきてくれたジュリーさんであった。盗賊団、早く来なさい。待ちくたびれたよ。
「こんばんは、夜分にすみません」
ジュリーさんが突然の訪問を詫びた。
今日は、騎士姿ではなく、普段着だ。先日言っていたとおり、遊びに来たようだ。でも、なんだかこのあいだと、口調が違う。背も低くなってない? 同じぐらいの身長だと思ったけど、僕より低いよ。
「いえいえ、先日はクッキーありがとうございます。おいしかったですよ」
そう言って僕は彼女を招き入れた。
変化の術を教わらなくては。
ブルーは、あらあら、と言いながら、少しあわてている。
突然の来客だからね。
ジュリーさんは走ってきたのか、少しはあはあ、息を吐き、落ち着かない様子だ。休んでもらおうと思って、僕は椅子をすすめた。ブルーがお茶の用意をして、いれてくれる。
!?
前を見たら、目の前に知らない女性がいた。金髪のポニーテール、目が少しだけキリッとした女性。ジュリーさんはどこかに行ってしまった。いや、ジュリーさんとこの女性が入れ替わった?
「【偽装】が解けちゃいましたね。背が少し低くなっていたので、もう解けるとは思っていましたが」
ブルーは驚いていない。ブルーの知っている人?
「すいません。私はアンリエッタ・マソンです」
【偽装】がかかっていたのか、ぜんぜん気がつかなかった。で、誰だろう? 知らない人だ。僕がとまどっていると、ブルーが、あのときの、ダンジョンに行ったときの方です、と言う。
まさか揚羽さん?
待てよ?
ジュリーが変化の術で揚羽さんになっていたと思っていたが、そうではなかったんだ。
やっと真実がわかった。
あのときは、揚羽さんがアンリエッタに化け、さらにジュリーに【偽装】していたんだ。
今日も、【偽装】を使ってジュリーさんになりすましていたが、【偽装】が解けてしまったのか。
ややこしいけど、やっと、わかった。僕はにぶ過ぎる。
たぬきや狐が人に化けるというのは聞いていたが、蝶も人に化けられるんだね。
でも、質量保存の法則は? アンリエッタのほうが、法則には近づいたけど、まだまだ質量が大きすぎる。
「揚羽さん、なにか、あったんですか?」
僕が尋ねる。
アンリエッタは、えっ、という顔をしている。
…………揚羽さん? もしかしたら、蝶のことが知られている?
…………そんなはずはない。正体を知られるようなことはなにもしていないはずだ。
…………素性は……蝶のことなんて言えない…………
「アンリエッタさんは、国に追われているんです」
僕「?!」
アンリエッタ「?!」
僕とアンリエッタで、ブルーの顔を見た。
「かくまってあげましょう。我々も同じ盗賊です。仲間です」
ブルーのことばに、なるほど、と思った。
揚羽さんはアンリエッタとなり、盗賊をして暮らしていたんだ。ヘマをしちゃって、ジュリーに【偽装】して逃げていたんだけど、とうとう限界になったんだ。僕があの店で指輪を買ったから、同業だと思って、我が家に逃げ込んだのか。
蝶に歴史あり、揚羽さん、数奇な運命を歩んでいるね。
「大丈夫、わかってますから。任せてください」
ブルー、姐御だね。頼りになる。
アンリエッタは呆然としている。なにか言いたそうだが、ことばが出てこないみたいだ。
「僕もできるだけの協力はするよ。まあ、まだ盗みはしてないから、盗賊未満だけど、だけど指輪もあるから、盗賊と同じようなものさ」
アンリエッタは不可解な表情を見せながらも、うなずいた。
追われているのか……
そこで僕は、いいことを思いついた。
ショコラがいたら、「あったまいいーー」とほめてもらえたのに、残念だ。




