35 アンリエッタの任務 ②
ジャック・エロワは二人を見つめていた。
レスリーとアンリエッタがタワーレベル2のエリアに向けて歩いている。エリア内までもうすぐだ。
アンリエッタは術式を構築して、二十頭の蝶を召喚した。蝶に囲まれるアンリエッタ、その蝶の中の二頭がエリア外に残り、十八頭の蝶を連れて、レスリーと共にエリア内に入った。
ゴーレムに怪我をさせて入口を確認したらしい。二人は迷うことなくタワーに向かって歩いていく。そしてタワーに入った。
距離をとって監視していたパーティーの一組が、タワーのエリアに近づく。羽を休めていた蝶の一頭がそのパーティーを尾行し始めた。そして、パーティーとともにエリア内からタワーに入っていく。
今、タワーの中には、レスリー・アンリエッタ組と蝶に尾行されたパーティーとが、別空間ではあるが、潜入している。
エリア外には距離をとって監視する我々が木立に隠れている。
計画は順調だ。木立に隠れながら、リーダのジャックは笑みがこぼれた。
異変が起きたのは二時間ほど経った頃である。
突然、エリア外にいた蝶が白い霧となって消えてしまった。
ジャックはハッとした。召喚したものが霧となって消える、それは二つの可能性があった。召喚師が意図的に召喚解除をするか、召喚師が死んでしまったか、どちらかである。
エリア外に待機させた蝶を意図的に召喚解除する理由はないはずだ。だとすれば…………答えは一つだ。
三十分ほど経った頃、蝶とともにタワーに入っていたパーティーも慌てて戻ってきて、ジャックに報告する。
「俺たちを尾行していた蝶が突然消えた。エリア外にいる蝶はどうだ?」
「こっちの蝶も消えた。もしかしたらまずいことになったかもしれない……」
消えた理由は一つしかないが、それをジャックはことばにできなかった。
二組のパーティーが木立に隠れて待つこと、一時間ほど、レスリー一人がエリア外に出てくる。
ローブの汚れが、距離があるにもかかわらず、わかった。肩を落として、泣いているようにも見える。一人で本部に戻るつもりだ。
「しかたがない。失敗だ。俺たちもレスリーの跡をつけながら本部に戻る」
そう告げて、ジャックはゆっくり歩き出した。
足取りは重かった。
金属ゴーレムが出た。しかもプラチナゴーレムだった。レスリーの魔術ではどうにもならないほど、硬い金属。まさかプラチナが出るとは思わなかった。
レスリーは十八頭の蝶を保護することに気持ちをとられ、その隙を狙ったプラチナに殺されてしまった。
レスリー自身も逃げるのがやっとだった。
上層部が受けた報告の概略は以上のようなものだった。
レスリーは調査の失敗によって、謹慎・降格処分が下された。
魔道師団の中でのレスリーの居場所は、なくなりつつある……




